青野9段記事

タイトルを取らないと生きていけない、切迫感でつかんだ初タイトル 渡部愛女流王位

【勝負師たちの系譜】
 棋聖戦の連載中だが、話題の女流棋士がタイトルを獲得したので、今回はぜひ紹介してみたい。
 その棋士とは、里見香奈女流王位に挑戦していた、渡部愛女流二段(いずれも当時)である。
 渡部は北海道・十勝の生まれ。中学2年の時に同じ北海道出身の中井広恵女流六段と出会い、女流棋士の道を目指すことになったが、高校を卒業するまでは地元で修行し、18歳で単身、東京に出てきた。
 中井が日本女子プロ将棋協会(LPSA)所属だったので、自然にLPSAの一員となり、ツアープロとなった。しかし当時は日本将棋連盟から分裂した軋轢もあり、容易に正式なプロ認定を受けられず、苦労したと聞く。
 しかし団体は違っても、応援する棋士は多く、同郷の野月浩貴八段や若手棋士達には、随分教わったと言う。現在は先崎学九段の研究会に入っている。
 渡部の正式な女流プロ認定は、2013年7月、19歳の時だった。
 今回の女流王位戦の展望を予想する座談会は、私とLPSAの蛸島彰子女流六段とで行われ、三社連合加盟社の紙面に掲載された。蛸島は今年引退した、女流棋士第1号のベテランである。
 その中で、私は渡部のことを「タイトルを狙える数少ない女流棋士の一人」と表現した。ほかにも当然強い女流はいるが、里見の昨年度五冠全部を防衛し、奨励会の三段まで行った実績に、とても勝てるわけがないという雰囲気が、全体に漂っている気がするからだ。
 もう一つ、将棋連盟の人気女流棋士となると、テレビ、ネット対局の聞き手などに使われ過ぎて、研究する暇もない人もいると聞くが、LPSAの渡部は、タイトルを取らないと生きていけないという、切迫感があったと思う。
 地元札幌で始まった第1局で、終盤の名手である里見が、詰みを逃して敗れたという運も味方した。しかしその後も、3勝1敗で奪取できたのは、やはり本人の実力である。
 今度は追われる身となった渡部がどこまで防衛し、タイトルを増やせるかが注目される。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180625-00000016-ykf-soci