葡萄牙(ポルトガル)商人ペレイスの手記

〇月△日
夕刻、城の側を歩いていると、馬に乗って荷物を運ぶ真恒殿と出会った。
私を見ると、慌てた様子で左の耳の下あたりを手で隠しながら馬上から挨拶をしてくれた。
今、城下はもうすぐ始まる催し物のために集まった多くの旅人や、新しくできる劇場の普請のための人足などでとても賑やかである。
この催し物は私の商売にも大きな利益をもたらすので協力しているが、何しろ今までに経験のないことであり、
関わる者の苦労は並大抵ではない。
普段から国政の激務とお殿様のお世話で忙しい真恒殿は、
最近では止まっている姿を見ることがないほどである。
首の様子が悪いのであろうか?心配なことである。

〇月□日
催しも終わり、城下も静かになった。
長いこと城に滞在していた女装の男性や国主の友人たちも、旅立ったようである。
朝方、真恒殿に偶然会った。客人も帰ったので、久々に領内の見回りに出た帰りとの事であった。
一体この青年はいつ眠っているのだろうか。若い彼も、さすがに疲れた様子であった。
先日の首のことが気になったので私の拙い日本語と身振りで大丈夫か聞くと、
先日と同じように耳の下を押さえてなぜか真っ赤になった。
借りていた書物を返したいと伝えると、午後なら執務室にいるということなので、訪問を約して別れた