>>874から続きます

「殿、ご歓談のところ、失礼いたします」
「めんどくせーな、恒。みんな知った仲なんだからそんなしゃっちょこ張らなくていいんじゃね?」
「は、申し訳ございませぬ」
「いや、だからさ〜」
「で、何用じゃ?」
「はい、これが『寝狸磨よい子の家』に…」

「箕浦殿…いや、弘行法師殿…」
「あ、豪田殿、いえ上様」
「上様はおやめくだされ。かつての通りに呼んでくだされ」
「いやしかし今は自らは武士ではなく一介の旅の修行者…しかしそのお気持ちもわかります。豪田殿と呼ばせていただきます。
 こんな町はずれの茶屋に何の御用でしょう?」
「この金子についてご説明を願いたい」
「な、何のことやらわかりませぬ」
「今、一瞬吃られましたな」
「……」
「我らの仲で水臭い。このような真似は…」
「折角の祝宴にお招きいただき、こうして茶屋まで開かせていただいた。
 拙僧の茶は無料なれど、皆心付けを置いていって下さるのが日に日に貯まってしまったので」
「しかし、弘行法師殿も何かと要りようであろう」
「茶屋で余った薬草などを売って糊口をしのぐことは出来ております。私は沢山の人を殺しました。
 ですから今は自分の茶で一人でも多くの人を健康にしたい。お招きに預かったのも、寝狸磨の国には伊織先生という優秀な医師と
 西洋医学に詳しい宣教師やポルトガル商人がいて、教えを乞えると思ったからです。
 もし豪田殿がその金子を受け取る理由がないと仰せなら、薬草学の授業料ということでお納めください」
「…かたじけない。ではこれは『よい子の家』の子供たちのために使わせていただこう」
「礼を言うのはこちらの方でございます」