あの人は今

2030年、竜王戦。それをテレビで見つめる男がいた。
かつて、奨励会員が参加しない小学生大会で優勝し、将来を嘱望されたプードルさんだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想するプードルさんは、どこか寂しげだ。
「未だに夢を見ることがあるんですよ。王将戦で、僕がY先生相手にタイトルを奪冠する夢を」
プードルさんは、一方的にライバル視していた同学年のYが順調に昇級すると、心が折れて奨励会休会を続けたが結局復帰することはなく、とつぜんの奨励会退会をした。
今はコロッケ屋を営む傍ら、ネット将棋教室を勤めている。ネット将棋教室の看板の文字は師匠の森信雄七段の手によるものだ。
「今日はどうされましたか?」。若狭湾から歩いて3分。
「コロッケ・プードル」の看板をくぐって中に入るとプードルさんの明るい声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。看板の文字は師匠の森先生に書いていただいたものだし、開業に合わせてTwitterやテレビでも取り上げてもらった。
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
プードルさんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
とはいえ、その分、プレッシャーも大きかったという。
かつて一方的にライバル視していたY八段の竜王戦挑戦について尋ねると…
「知ってます?あいつ小学生のとき俺に負けたことあるんですよ?」と、おどけ
「地方ハンデさえなければ…その気にさえなればあっという間に有段者なのに…歯がゆいですけど、先に7級退会したNよりはマシですね」
「今はもう奨励会に未練はありません。今度はコロッケで日本一になれるよう、がんばるだけです!」
(写真)コロッケを手にするプードルさん