『白猫』(ちくま文庫)面白かった。
ところでこの作品の連載にあたり、「作者の言葉」が記されてある。
『長篇文庫』(三笠書房発行)の三月号だ。
その末尾に、
だが、実は成功も失敗もあったものではない。ただ、努力あるのみ。
その努力に附き合つてくれるところに、読者の坐り場所がある。
書くにも、読むにも、小説と云うやつは人間に楽をさせておかないやうな代物だ。

石川の執筆にかける並々ならぬ情熱と気負いをうかがい知ることができる。
連載最終回の九月号では「改題に就いて」が添えられている。
この小説の題を『東方の風』と改めます。
連載の都合上初めに題を置く必要があつたので、仮に『白猫』としておいたのですが、
書き出すに従つてどうも不似合と思はれ、今稿を終へるに当つて、しかく改めました。
この題名には、格別の仔細はありません。どうか、東方にこだわらないで下さい。
一般に、本文が小説であるのに対して、題は常に文学なのです。

内容とは逆に「東方」にこだわってるのがおかしいが、いまだに『白猫』で出版されているのはどういうわけか。