>>108
「チョコレートの最後のひとかけらを奪い去られた時、
母は妹を両腕に抱き締めたのであった。それは役にも
立たない行為であり、なんの変化ももたらしはしなかったし、
チョコレートが新たに出てくるわけでもなかった。
そうしたからといって、子供や自分の死を回避できる筈もなかった。
しかし彼女には、そうすることが自然のように思われたのだ。
ボートに乗っていた避難民の女も幼い子を腕でかばったが、
それは弾丸に対して紙一枚ほどの役にも立たなかった。」