「塔の中の女」が設定の一部をギリシャ悲劇から、書き方をカフカ風に、
プロットをカフカの「城」、「変身」、「審判」などから借りて、
広義のcastration complexを小説の形によって考察した、と見る。
electra complexだけでなく、この作品中ではorestes自身もある意味で
去勢された者に近い無能力者。orestesもelectraも結婚して子供を
作っていないという意味で。
精神的に去勢された男女はqumranの死海文書の書き手と大方から目されている
essenesのessenismにも通じる。
と、四割読んだ時点で思うことだが。「群像」の創作合評でカフカの名が
一度も出なかったのは不思議過ぎると俺には思えるが。この作品には
1990年代のフェミニズム・バブルのシンボルの上野千鶴子や富岡多恵子らの
全く窺い知れない世界があることは確かだろうな。