【深い河】遠藤周作【沈黙】
遠藤周作(1923年3月27日 - 1996年9月29日)
『沈黙の声』(2017年、青志社)、1992年時の著作
「長崎で見たときはなんでもなかった踏絵が私の心にかかりだし
たのは、東京へ帰ってきてからだった。(中略)
あの黒い足指の痕を残した人びとはどういう人だったのか―――と
誰もが考えるように、私も考えた。自分の信ずるものを自分の足
で踏んだとき、いったい彼らはどういう心情だったのだろう。」
「踏絵に足をかけていった人びとの話は、私にとってけっして遠
い話ではなかった。むしろ切実な問題だった。〈信仰〉などと言
うと縁遠い話になるのなら、〈自分の生き方や思想・信念を暴力
によって歪められざるをえなかった人間の気持〉と考えてみれば
どうだろう。誰にでも痛いほどに分かる問題のはずだった。
踏絵の足指の痕は、他人事ではない。」
遠藤周作『沈黙の声』