ハインリッヒ・フォン・クライスト「チリの地震」冒頭
チリ王国の首都サンチャゴで、何千という人間が落命した一六四七年のあの大地震のまさにその瞬間、
さる犯罪のために告訴された、その名もジェローニモ・ルグェーラという一人の若いスペイン人が、
監禁されていた牢獄の柱の下に立っていましもみずから首をくくろうとしていた。このときをさかの
ぼることほぼ一年前、[…以下略]

この冒頭の一文だけでの、スケール規模がかなり異なる共時的な偶然(あるいは必然?)の事象の結合。
その緊張を緩めないまま、改行もなしに一年前へ遡る異常な展開。遡って投獄され首つりに至る経緯が
語られ、2ページ後には早くも冒頭の一年後の地震/首つりの時点に到達し、冒頭からの続きになる。
こういうのを映像でやっても、時間およびスケールが異なる事象の異常な瞬間性を持つ結合感は、
同じようにはそうそう出せないんじゃないかと思う。