「ところで、三島由紀夫が、「絶対を垣間見んとして」死んだのだという紋切り型は、澁澤龍彦のこのエッセイに始まる。
信じがたく単純なこのエッセイを読んで感じるのは、澁澤龍彦というのがたかだか高度成長期までの文学者だったというこ
とだ。近代社会のタテマエがそれなりにしっかりしていたから、それにちょっと背をむけてみせれば、「異端の文学者」を
気取ることができた。それに、ヨーロッパがまだまだ遠く、洋書を手に入れるのも難しかったから、あの程度でも素人は眩
惑できたという事情もある。だが、さすがに僕の世代ともなると、澁澤龍彦が面白いというのはよほどナイーブな人間ということになった」 浅田彰