野島さんはその後『人間・失格』(94年)辺りから、レイプやいじめといった過激なモチーフと、それに伴う露骨な“トラウマ”を登場人物に負わせることで、物語を動かす手法を使いはじめる。
登場人物の動機をすべて過去のトラウマに回収させていくこの手法は、書き割りのような人間観で深みがない、と批判されることが現在では多かったりもします。
基本的には僕もそう思うけれど、野島伸司という作家をそれだけで片付けていいようにはどうしても思えない。

 彼にはたしかに、効率的に視聴者を(後に引かない程度に)傷つけて、効率よく感情を揺さぶるために、トラウマ頼みの人物造形を行っていた側面があるんでしょう。
しかしその一方で、彼のドラマには“もっとも深く傷ついている者こそ、もっとも深く救われる”という独特の美学が貫かれています。
その美学が、ときに私たち視聴者の道徳感覚とズレているため、違和感ややりきれなさといった理不尽な感情がかきたてられ、それが野島ドラマの不思議な魅力になっていたと思います。