銀座の行きつけの店、「まり花」で内田裕也と、偶然、同席した吉行淳之介は、上機嫌で、フリオ・イグレシヤスの「ナタリー」を歌って欲しいとロック歌手に頼んだ。
そして、不機嫌そうな裕也の顔を見て、
(やっちゃったか)
と覚悟を決めた表情になり、
「あれ、その目はオレを殴ろうと考えてる目だね。うん、殴ってもいいよ……だけどさ、殴ったらオレ」
と言って間を置いて、
「殴ったらオレ、死んじゃうよ」
そう言って笑うと、内田裕也は立ち上がり、吉行淳之介に握手を求めた。

村松友視