はな、毛嫌いというバイアスがかかっている批評家や評論家に無視されつつある西村だが、各作品を仔細に読みこめば
心理描写の上手さには驚くしかない。また風景描写も巧いんだこれが。
夜逃げ直前まで在籍した小学校に父親が犯した事件以降、テレビ取材で久しぶりに訪う小品がある。タイトルはネタバレ
になるから遠慮する。
で、その中で教室かなにかの窓辺で煙草を吸うシーンがある。眼前に今では数少なくなったがそれでも残っている、江戸
川区の初夏の田園風景が広がっている。たった4〜5行で書き流されているけど、みごと自身の葛藤と、しかし忘れ得
ない光景の思い出が重なっているシーン。どちらかといえば硬質な文体なのだが、読み手に映像として提示させてくれて
いる。巧いものだとつくづく感心した。今の作家であれほどの技巧をもった人はいないと思う。