>別段、『男流文学論』に限らないが、日本のフェミニズム文学に欠落しているのは、たとえば、
 「『芸術』の本領は、侵犯の否定性によって定立を砕き潰しながら、定立もまた手放さないというとこ
 ろにある」(J・クリステヴァ『詩的言語の革命』、原田邦夫訳)という、意味生成のあやうい「理論
 的仮定」を生きようとする果敢さである。
  ここでクリステヴァが言う「侵犯の否定性」は、後に彼女がアブジェクシオン(おぞましきもの)
 と呼ぶようになる意味生成的なものであり、女性性と深く関係している。

スガ秀実 「喪失」の自明性ーフェミニズムと文学