柄谷は「階級論について―漱石詩論T」で「坑夫」を取り上げているが
漱石の描く炭坑はしょせん聞き書きに過ぎず
そこで労働に従事する人間も学卒のインテリ目線で書かれた
社会的落伍者でしかないとしている

その上で精神分析学的な解釈を駆使して
地下世界たる炭鉱単なる過重労働の支配する苦界なのではなく
はたとえば深層心理のような快感原則が支配する異界でもあり
知識人である漱石はそれを理解し得なかった
と結論している

こういう解釈はどうなんだろうかね
吉本隆明の「快楽」という言葉だけを頼りに
労働者の世界には独自の快楽があるはずだ
という思い込みだけで書いている
「岬」や「枯木灘」で描かれた性労働=聖労働と同じような考えを
漱石作品に投射しているだけであり、当然のことながら
漱石作品にはそういうものが見当たらなかった
しかしそれは柄谷の見当違いではなく漱石の欠陥として指摘される

柄谷はほんとうに…