ハイデガー ヘーゲル「精神現象学」についての講義

わたくしたちは「経験」の二つのグループと概念とを簡単に次のように区別する。

(1)経験をするー何か或ることについての意見を、直観によって事柄自身に照らして証明し、その正しさを確証する。

(2)経験をするー事柄自身に、それに関して真実にはどのようになっているのかを、言いかえればそれ自身の正しさを示させる、すなわち事柄自身に自己をその真実のあり方において示させる。

さて『現象学』の表題−意識の経験の学−のなかに現れるヘーゲルの経験の概念は、決して今日の現象学が用いる上述の経験の概念の方向に沿うものではない。その強調点は、直観による正しさの確証という意味契機のうちにはない。(38)

ヘーゲルの経験概念は、むしろ、経験という語の意味の第二のグループの方向に沿う。つまり或ることについて経験をすることによって−それも否定的かつ肯定的な意味において−この或るものが自己をその真実のあり方において示す、あるいは、この或るものが最初見えた通りにではなく、真実にはそれとは別の仕方で有ることを経験する、このような意味の方向に沿う。…経験は意識においてなされる。意識が経験の対象である。