また、「文化力」という話の根幹になる設定自体も結局の所冒頭近くの「文化力とはどういう物か」という説明と
中盤での志緒とその母親を襲った事件の辺りで描かれた状況が今一つ繋がらず理解に苦しんだ。
作中に独自の設定を持ち込むのは良いが、シンプルで読者に理解しやすい物にしないと読者の集中力が削がれて
ストーリーに集中できなくなるのでこの辺りの配慮はもう少し欲しかった。

読み終えてみれば作者の好みであり、「書きたい部分」であ るテンポの良い会話劇やコメディシーンは良いし、
人間不信だった少年の成長というテーマ性の部分もストーリーの中に落とし込めているが、
全体の構成や設定の作り込みというどうも作者が苦手としている部分の粗は残ってしまった。
良い部分・今後「売り」に出来そうな部分は割と明確になったので、残った部分は苦手な部分をどう次作意向で
克服するか、という良くも悪くも新人作家のデビュー作らしい作者の成長が望まれる一冊だった。