>>920
全部読ませていただきました。
好みもあるとは思いますが、打ち切りはもったいないなあと思うほど個人的には楽しく読みました。

キャラクターの会話が秀逸です。
とくに四天王の会議におけるスペードの柔軟さを欠いた台詞回し、ハートのとぼけた返答が読後感としては最も強く残りました。
読んでいて目を引いたのはボケとツッコミのピッチです。「井戸端会議part3」ではこんな会話がありました。

>「いや、最近では同性愛はとてもオープンなものになってきたからな…」

真面目過ぎるスペード。ありえない方向に話の舵を切ろうとするワンシーンですね。
読者としては彼のキャラクターはもはや十分承知しています。
ここでツッコミが入ると構図がお決まり過ぎて白けるなという読者的空気がある中で、すぐにハートが意外な方向に話題を変えます。
読者として楽なのに合わせスペードに対する「はいはい」という会議の空気が感じられるようで笑えました。
「酢豚にはパイン」でも感じましたが、作者さんは会話が上手です。こうした洗練が冒頭から随所に存在していて物語をすらすら読ませます。

二つほど指摘もさせていただくと、一点目、書き出しで大きく損をしていると思います。
「人の頭の中にはいくつものブレーキが付いている」から始まる性癖に関する最初の一文は、物語内容を知っていると半分ギャグだと知って読むことも出来るのですが、
知らずに読むと読者はこの固い文体で物語すべてが語られるのだろうと誤解しかねません。
冒頭では物語の正しい雰囲気の紹介や引き込まれるような魅力を見せた方がいいと思われます。
一つ間を置いて「利彦は息をついた」から始まる文章も同様の効果をもっており、
上述した書き出しを何とか乗り越えた読者も「利彦」というやや古さを感じるネームと、この装飾過多ともとれる文章で振るいにかけられて減少すると思います。

二点目は、島田たまきのキャラクターがいまいち安定していないように見える点が気になります。
クールビューティから人懐っこいキャラクターへかなりスピーディに変貌したように見え、
小学三年生から高校まで孤独に耐えていた少女がそこまで急速に変化して同級性にすんなり馴染めるかなという問題を感じました。
ついで文学少女であるのに「ひょうきん」が分からなかったり自身の心理を言語化できなかったりと、本から学びを取り入れて頭でっかちに大人びている様子があってもいいのかな、と思いました。

全体として楽しく読めるのですが、島田パンチラ事件から主人公たちの当初の目的が達せられたというか徐々に弱くなり、
四天王の会話も過激さを増してきて、新たな緊張感や目的を投下しないと、という段階で行き詰りだったのかな、という気がしました。
でもとても面白かったです。ありがとうございます。