「レトルト作品改稿」

悪いことをしてはいけません。他人を傷付けるのは悪いことです。
逆に良いことをしていれば、きっと幸せになれる。
 
 ずっと昔、少年は自宅のクローゼットに隠れ、この母の言葉を思い出していた。
少年はしゃがんで身を固くし、クローゼットの外から聞こえる粗悪な物音が止まるのを、ひたすら待っていた。
 お母さんと、朝までここに隠れていなさい、と言われたのだ。
必死に、耳を塞ぎ、寒さに耐えようと、とにかく我慢した。

 朝、少年は目を覚ました。いつの間にか、眠ってしまっていたのだ。
 物音は、もう聞こえなかった。
クローゼットから出たときの、朝日の眩しさは、今でもはっきり覚えている。
ただ眩しいだけで、暖かくも何ともない、凍てついた太陽の光。
少年は、裸足で冷たい床を歩きながら、母を探したが、家のどこにもいなかった。
母は、庭で死んでいた。
頭を殴られたみたいで、黒髪や血は凍りついていた。