>>269

まず、感覚の古さが気になります(ウリにしているようではあるんですが)。これ、80年代くらいのファミ通ものみたいなんです。
あの頃、ドラクエがあり、そのパロディがウケてました。今、リメイクアニメが放映中の魔法陣グルグルなどがそうです。
正直、今の魔法陣グルグルアニメが面白いとは思えません。前のだと、当時のゲームの雰囲気と相まって楽しめるものだったんですが。
レトロファンしか楽しめない、分からない作風を選んでしまったのは、かなり損だと思います。

構成にも問題があります。第0話では主人公の来歴を説明しているだけになっています。イベントがあると作者さんは仰るかもしれない。
でも、「以前にこういうことがありました」という説明しかしてないんです。目の前で起こっているようには感じられない。
思い出して語ってますし、アクションが入ってないですから。描写を大別すると、説明、行動、アクションとなります。
(注:説明は動作抜きです。何をしたかだけ。行動は動作を説明し、アクションは動作そのものを描写します。)

ツカミが入るべきなのが冒頭です。読者としては面白いかどうか迷ってますから、目を引き付けないと次節を読んでくれなくなります。
ところが、御作では第0章まるごと説明であるわけです。御作を読み進めるための情報提示、読者からすればお勉強です。
楽しもうと思って読み始めたら、作者さんから「これだけ頭に入れてから、作品を読んでね」と言われたに等しい。
非常に損です。この後、面白くなると誰かに聞いてなければ(普通、ない)読み進める気が起こりませんので。

これに加えて文体で損をしています。非常に平板で、抑揚もメリハリも緩急もありません。
一本調子で言動や行動を逐一描写してしまっています。例えば最新章(第14章)の戦闘描写を見てみます。

>  余りにそれが近くで聞こえたので寒気がした。ゼンジは振り返ると、そこにはヘレナを抱きかかえ、剣を握らせ、一緒にそれを振りかぶるクロノスがいるではないか。

寒気がするという描写に一文使っており、時間経過を感じます。間が生じているわけです。
振り返る動作が入り、続いてクロノスの状態を事細かに描写してあります。「いるではないか」は驚きを感じさせます。
驚いたことを説明しているわけですね。ですから、また間が生じています。ですので、クロノスは主人公が振り返るのを待っていた感じです。

> あとコンマ数秒もすれば、振りかぶられている剣がゼンジの頭を直撃するだろう。

ところが、あとコンマ数秒で剣が振り下ろされるという状況。これだと、既にクロノスは剣を振り降ろす動作に入っているとイメージされます。
前段との速度感の齟齬が生じます。しかも「するだろう」と、推測を述べる余裕を表してしまっている。
どうも、キャラの動きと文章表現の速度がちぐはぐなんです。文章で伝えるのではなく、イラストを説明しているような描写のように感じます。
速度感を上げる部分では、短文の多用、中継ぎ動作の省略などが有効です。その他、動作が済んでから何が起こったかを描写する手法もあります。

気になった難点をいろいろあげつらってしまいましたが、何が描写されているかは一読して分かります。文章技術はなかなかだと思います。
小ネタでつないでいくのも、かなり手慣れているような印象を受けました。各シーンの発想力と、それらをつなぎ合わせる構成も力をお持ちのようです。
世界観アイデアは上記で不満は申しましたが、作者さんの好みですから、読者としても好みの問題以上ではありません。
ですので、描写のテンポ、抑揚、メリハリ、緩急をブラッシュアップすると、今以上に楽しめる作品にできると思います。