評価お願いします二レスで一作品です


老人は静かな病室に貝の如く臥せっていた。
彼はふくよかな掛け布団に寝返りを打つと、窓額に仄暗い寒空とそこからヒラヒラと雪の舞降るのが見えた。
刹那、老人の脳裏にある一節が舞い込んだ。
老年の命とは粗目雪の様なものである、と。
老人はこの頃に自身が幼少期の再臨とさえ思える瞬間が有った。
いや、「再臨」などという言葉を使うと美し過ぎる。
それにしても彼の実際には....
いや言うまい。

それは老人がまだ少年と呼ぶべき時代である。
彼は一介の鼻垂れ学生の坊主頭で、ヤッパリ恋をしていた。
相手方の容姿は淡麗に有り、......そしてヒドく美しかった。
この少女に恋愛を抱いたのは何も彼の少年ばかりでは無く、甲も乙も、さらには丙さえもが彼女を愛した。
彼女は容姿に点いてはまるで白百合だった。
しかしまた彼女の性格に点いては鬼灯のようでも有った。
彼女は美しい容姿に、少しな動乱にさえも揺れ動く儚い生命であった。
彼女は周囲からは常時何かしらに怯えているようにも見え、また其の様が男共から激しく愛慕されたのだった。
それはもう良からぬ男達にも。

件の少女が14の時である。
彼女もやはり一介の学生には違いなかった。
紺色のセーラー服。黒髪、ツインテールの三つ編み。真っ黒な学生鞄。
色の静かな下町に彼女は往来していた。辺りには石塀や電信柱、チャルメラが聞こえる。
彼女にとっては全くに慣れ親しんだ道であった。あの電信柱の根元の白さや、彼方の赤ポスト。
彼女の他に人影は無い。それも彼女にしては日常茶飯事に過ぎなかった。
いよいよ夕日は今日一の働きを見せる。少女の目には射陽が眩しく、彼女は手をかざした。
暗く。暗くなった。
古来より「逢魔が時」と呼ばれる暗さに....。