使用お題:『かまくら』『幽体離脱』『声が遅れて聞こえる』『妖精』『最後の一撃は切ない』

【最後の願い】(1/2)


「ワたシをコロして下さイ」

 彼女は最期にそまう言った。
 夫に先立たれ、しかし、笑顔を絶やさない女だった。

「あの人の忘れ形見だからさぁ」

 そう言って、愛おしそうに眠った娘の頭を撫でていたのを覚えている。

 今思えば陽動だったのだろう。やけにあっさり退いた魔王の眷属に、嫌な予感を覚え、急いで集落へと戻った。
 元々、俺達がこんな北の果てまで来たのは邪妖精の反応を感知したからなのに……

 俺達が集落に着いた時には、殆どの村人が食い散らかされ、手の施しようもない有り様に成っていた。
 そしてその時、彼女は血の涙を流しながら、自らの娘の腸を啜っていたのだ。

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 体が肥大化し、面影すら失った眼前の怪物は、その巨体を裏切る、えらいスピードで走り回り、その衝撃波でイグルー……いや、かまくらと言った方が馴染みが深いか。既に主を失った“彼ら”の住居であるソレを吹き飛ばしながら攻撃してくる。
 俺は導師に掛けて貰った【身体強化】の魔法の効果もあって、辛うじてそれをかわしていた。

『グオオォォォォォ!!』

 その巨体が通り過ぎてから、怒声とも思える叫び声が遅れて聞こえる。
 衝撃波に体を持って行かれそうになるのを必死で堪える。
 普通の攻撃では俺には当たらない事に気が付いたのか、身に纏う衝撃波による攻撃に切り替え、どれ程経ったのだろうか?
 お互いに決め手に欠ける状態で無為に時間だけが過ぎる。
 回復、補助特化の導師や、攻撃魔法特化の魔導士。いや、耐久力の低い彼らだけじゃない。防御力の高い重機士だとしても、回避が困難な彼には下がって貰っている。
 1tを軽く越す音速の物体がぶつかれば、彼らでは危険だからだ。