0710この名無しがすごい!
2018/03/25(日) 20:01:10.01ID:QBjcD65l【フレンズ】
「愛弓、もう一回合わせよう」
「うん」
果奈ちゃんの言葉に、わたしは楽譜を最初までページを戻す。
部活に入った頃から使っている楽譜ファイルは、3年間でパンパンになり、持つとずっしりと重い。
でもそれが、わたしと果奈ちゃんとの時間の積み重ねだと思うと、それはそれで嬉しい。
マウスピースを唇に当て、トランペットを構える。
視線を交わし、タイミングをあわせ曲を奏で始めた。
******
譜面をめくる。
「っ……」
わたしはここの最初スタッカートでいつもつまずく。リズム感が悪いんだ。
でも、果奈ちゃんは「気にしないで」と、視線で促す。曲を最後まで通す事を最優先にしたいらしい。
わたしは頷くとそのまま通した。
******
「果奈ちゃん、ごめん」
「んー、他のスタッカートだと、それほど躓かないんだから、譜面をめくった直後で慌てちゃうんじゃないかな?」
そうなのだろうか? 果奈ちゃんは優しいから気を使ってくれてるのかも。
「譜面をめくるタイミングを前か後ろにずらしてみたら?」
「でも、見てないとわからないよ?」
「う〜ん……そこは、覚えるしか……私も覚えるまで付き合うから」
「うん、ありがとう、ごめん」
「親友でしょ? 気にしない気にしない」
その言葉に私の心がズキンと痛んだ。
親友……わたしと果奈ちゃんは親友だ。
でも……
「愛弓?」
「あ、うん、ごめん」
「へんな愛弓」そう言って果奈ちゃんは笑う。
わたしは曖昧に笑みを浮かべた。
気づかれちゃいけない。わたしはもう一度心に鍵をかける。気づかれたら“親友”では居られなくなる。
これは秘めた宝物。
わたしだけの秘密の宝物。
誰にも気づかれちゃいけない。彼女のと友達で居るために。
わたしは果奈ちゃんの透き通った横顔をチラリと見ながら、切なくていとおしいその思いをハートの奥にしまい込んだ。