使用お題:『楽譜』『フレンズ』『ずっしり』『秘宝』『ハート』

【フレンズ】


「愛弓、もう一回合わせよう」
「うん」

 果奈ちゃんの言葉に、わたしは楽譜を最初までページを戻す。
 部活に入った頃から使っている楽譜ファイルは、3年間でパンパンになり、持つとずっしりと重い。
 でもそれが、わたしと果奈ちゃんとの時間の積み重ねだと思うと、それはそれで嬉しい。
 マウスピースを唇に当て、トランペットを構える。
 視線を交わし、タイミングをあわせ曲を奏で始めた。

 ******

 譜面をめくる。

「っ……」

 わたしはここの最初スタッカートでいつもつまずく。リズム感が悪いんだ。
 でも、果奈ちゃんは「気にしないで」と、視線で促す。曲を最後まで通す事を最優先にしたいらしい。
 わたしは頷くとそのまま通した。

 ******

「果奈ちゃん、ごめん」
「んー、他のスタッカートだと、それほど躓かないんだから、譜面をめくった直後で慌てちゃうんじゃないかな?」

 そうなのだろうか? 果奈ちゃんは優しいから気を使ってくれてるのかも。

「譜面をめくるタイミングを前か後ろにずらしてみたら?」
「でも、見てないとわからないよ?」
「う〜ん……そこは、覚えるしか……私も覚えるまで付き合うから」
「うん、ありがとう、ごめん」
「親友でしょ? 気にしない気にしない」

 その言葉に私の心がズキンと痛んだ。

 親友……わたしと果奈ちゃんは親友だ。
 でも……

「愛弓?」
「あ、うん、ごめん」

 「へんな愛弓」そう言って果奈ちゃんは笑う。
 わたしは曖昧に笑みを浮かべた。

 気づかれちゃいけない。わたしはもう一度心に鍵をかける。気づかれたら“親友”では居られなくなる。

 これは秘めた宝物。
 わたしだけの秘密の宝物。

 誰にも気づかれちゃいけない。彼女のと友達で居るために。
 わたしは果奈ちゃんの透き通った横顔をチラリと見ながら、切なくていとおしいその思いをハートの奥にしまい込んだ。