0774この名無しがすごい!
2018/03/30(金) 11:48:13.86ID:OnJ0AuTGお題 『麦わら帽子』『四字熟語』『レーズンブレッド』『スマホゲーム』『青』
【勇者と魔王】1/2
カン、カンと剣戟が鳴り響く。
ここは魔王城、謁見の間。勇者と魔王の最後の一騎打ちが行われている。それまでの激闘に次ぐ激闘で魔王の部下も、勇者の仲間も既に命はない。
カァン!
勇者の一撃が、魔王の兜を弾き飛ばす。人間と魔族の争いが始まって五年、その間に一切素顔を見せなかった魔王の顔が露わになる。魔族特有の頭部の角と銀色の長い髪が乱れながら姿を表す。
そして体勢を崩した魔王の大きな隙に、しかし勇者は追撃できないでいた。その姿に見覚えがあったからだ。
「……サ……ラ…………? え? なんでお前が……?」
「……こうするしかなかったからよ!」
激高するように、魔王サラは勇者へと斬りかかる。あまりにも衝撃的過ぎたその魔王の正体に咄嗟に防御をするものの、その隙を狙われた。魔王サラは強引に間合いを詰め、剣を胸に突き刺した。
ーー勇者の剣を己の胸へと。
魔族の証とも言える青い血が勇者の剣を伝って地面へと落ちていく。その傷の深さは確実に致命傷である。
「サラ!? お前、なんてことを!?」
「……今更遅いのよ。人間と魔族の争いを終わらせるにはこれしかないの! あなたには死んでほしくないのよ……」
「俺だって、お前だって分ってたら……!」
「……だからもう遅いのよ。でももうこれでお終い……」
徐々に身体の力が抜けていくサラの身体を支えながら、勇者は後悔をした。その脳裏に浮かぶのは、かつて幼い頃に出会ったサラとの思い出。
行商人であった両親と共に立ち寄った村で出会った少女。いつも麦わら帽子を被っていて、いつかパン屋になって大好物であるレーズンブレッドを看板商品にするんだと得意満面に話していた少女。そして、勇者の初恋の女の子。
行商人の仕事を終え、両親とすぐに旅立った勇者にはその後何があったのかは分からない。改めて考えればあの麦わら帽子は魔族の角を隠すためだったのだろう。
「……ごめんね、こんな事になって。あなたとはもっと別の形で再会したかった……」
「サラァァァアアーーーー!!」
その言葉を最後に魔王サラの命は尽きた。その場に残った命は勇者のものだけ。多くの魔族を殺し、仲間も失い、そして初恋の少女もその手にかけた。
勇者は力無く立ち尽くす。なぜこうなった? 大事な者を助けるために立ち上がった筈が、なぜその身で大事な人を殺している……?