使用したお題:『忍者』『博打』『エイプリルフール』『巨大または極小』『サービス』
【ヤイバ】(1/2)

 狭い石造りの部屋にたくさんの人間がいた。全員がピシッとしたスーツを身にまとっている。一人を除いた全員がヤクザだ。
 あぐらをかいた二人を囲うように円陣を組んでいる。
 博打をしていたのだ。
 がっちりとした体格の男が今回の博打の元締め。大木の年輪よろしく、眉間の皺が彼の人生における修羅場の数を物語っているようだった。
 対するは少々小柄な人物。
 なよっとした印象を受けるが、こうもヤクザに囲まれているというのに飄々とした態度は崩していない。
 ヤイバ、と彼らには名乗っている。
 元締めヤクザが唸るような声を上げた。

「それで、アンタは全財産を賭けた博打に負けたわけだが……」

 そう、博打をしていた、のだ。すでにヤイバの負けは決まっている。今は反省部屋に連行されている状態だ。
 ヤイバは妙に高い声で反応を示した。

「――――おむすびころりん的宝箱選択法、知っているかな?」
「…………」

 そんなの知るはずがなかった。

「おじいさんの前に、巨大な宝箱または極小の宝箱が置かれた。君はどっちを選ぶか、それを決めるのがおむすびころりん的宝箱選択法なのだよ」
「……つまり何が言いたい」
「謙虚な俺はそれに従ったんだ。もっと俺に配慮すべきでは?」
「うっせぇハジクぞ」

 ヤイバの頭にチャキっと小気味の良い音。モブヤクザの一人が拳銃を押し付けたのだ。
 これにはヤイバも黙るしかない。だって怖いんだもの。

「はぁ……お前が女だったらなぁ? 適当な風俗、今だと……人手の足りないコスプレ専門店に沈めるんだが……」

 ヤイバはそういう性的なサービスをする店に行ったことがない。なけなしの想像力で、風俗で働く自分を想像してみた。
 むさ苦しい部屋にて忍者のコスプレ、そして男に奉仕する……。
 ヤイバはゆったりとかぶりを振る。しかし本当は恐怖のおもむくままブンブン頭を振り回したかった。

「生憎だが俺は男でね」

 余裕の笑みを顔に張り付ける。その割には膝がガクガクと揺れ動いていた。

「まぁ、男だったら腎臓でも売るしかないよなぁ?」
「臓器バイバイってか? ははっ、笑えねえよぉ……!」

 頭にチャキっと小気味の良い音。

「面白くもねぇ冗談は嫌いだ」
「スミマセン」
「わかりゃあいいんだよ。わかりゃあな」

 元締めヤクザが何やら指示を出す。「連れて行け」だとか「あのヤブ医者に連絡を入れろ」だとか想像するだに恐ろしいような命令だ。
 さすがにそろそろヤバイと、ヤイバはぺらぺらと口を回す。

「ところで今日は何の日なのか? 知ってるかい?」
「……エイプリルフールだな」
「そうエイプリルフールなのだよ。つまるところ今までの博打の結果は全てウソ。俺は全くの無傷でヤクザの屋敷を離れることにしようか」
「そいつぁ、無理な相談だな。俺たちヤクザの、四月馬鹿ルールが許さねぇ」
「……ほう?」

 ヤイバは驚いた。まさかヤクザが私の話に付き合ってくれるなんて……、しめしめと内心でほくそ笑む。
 しかし続く言葉に呆気にとられた。