使用したお題:『忍者』『博打』『エイプリルフール』『巨大または極小』『サービス』

【クレタ人は嘘つき】(1/2)
 クレタ人は嘘つきだという言葉を聞いた事はあるだろうか。色んな論理問題に出てくる謎の人種だ。

 『クレタ人が「全てのクレタ人は嘘つきだ」と言ったとすると論理破綻が起こる』というところから始まり、『目の前にいる人間がクレタ人かどうかを一つの質問で確かめなさい』とか
『天国への道をクレタ人か普通の人かわからない人に質問して決定しなさい』なんて問題もある。中学生にでもなれば誰でも一度は彼の名を聞いたことあるだろう。

「で、自分はそんなクレタ人なわけだけど、ちょっと困ったことが起きてね」

 そんな嘘つきの代名詞として有名なクレタ人が僕へ急に問いかけてきた、真顔で。そりゃもうビックリしたよ。
 とりあえず僕は真っ先に思い付いた返事をした。え、それも嘘?

「いやさね、自分が困って相談するのに嘘をつくバカはいないでしょう。さすがにクレタ人でも場はわきまえるよ」

 クレタ人は意外と常識がある人のようだ。だったら嘘なんてつかなきゃいいのに。
 思わず漏れ出た僕の本音に、クレタ人はこれまた真顔で答えた。

「クレタ人は嘘つきで長年通してるからね、こればっかりは譲れない。我らが誇りに賭けて」

 誇りと一緒に人生まで賭けてるなこの人……。
 どうせ賭けるなら他のことにプライドを持てばいいのにと思ったが言わないでおいた。僕は一応空気が読める。
 話を本題に戻した。で、何が困ったの?

「今日が何の日か知ってるか?」

 トレーニングの日だね。あと児童福祉法記念日でもあるかな。あとは万愚節でもあるね。

「なんでエイプリルフールを万愚節なんていうマイナーネームで言ったんだ。しかも一番最後に出てくるって……こいつ空気読めないな」

 失敬な、万年嘘つきのクレタ人よかマシだよ。

「褒めてくれてありがとう。そんなことより察しておくれよ。クレタ人とエイプリルフール、ここら辺の関係性で何か思うことはないかね?」

 そんなこと考えた事もなかったよ。でも、どっちも嘘関係だからなんか相性良さそう?
 僕がそう問い返すと、クレタ人は首をブンブン振った。

「そう思われる事は知っているが、実際はそんなことないんだ。エイプリルフールは嘘をついてもいいわけだろう? そうなると我々がどんな嘘をついたとしても、『ああ、エイプリルフールだから嘘をついたのか』って言われてしまうわけだ。これが悔しい。
 普段なら『クレタ人が本当に嘘ついた! やっぱりクレタ人は嘘つきなんだ!』って盛り上がってくれるのに、この日だけはハレの日に舞い上がる一般人へと埋没してしまうんだ……」

 いまいち同情できないけれど、なんとなく言いたい事はわかるかな。
 ええっと、つまりこんな感じかな? 自分だけチート能力を貰って転生するのはいいけど、自分以外の人や異世界人も含めて全員チート能力持ちだと嫌だ、みたいな考えだと思っていいか? なんて器の極小な人なんだ……。

「なんかそう例えられると同意したくなくなるが、まあそんなところだ。自らのクレタ人としてのアイデンティティが犯されてる気がして結構辛いんだ。どうにかならないだろうか?」

 どうにかって言ったって……。ええっと、じゃあ逆にエイプリルフールはクレタ人は嘘つかないようにするとか?

「そんなことはできない。クレタ人は嘘つきであることに意味があるんだから」

 なんかオフの日でも笑いを取ろうとするサービス精神豊富な芸人みたいな思考だな。でも、なるほど、嘘をつくことは止めたくない感じか……。
 ならこんなのはどうだろう。名づけて『影分身作戦』。

「影分身? 忍者がやるやつか?」