初めて参加しやす。難しかった(小並感)
使用したお題:『巨大または極小』
【方舟】
「あなた、生きてるか」
 声を掛けられて、男はハッと目を覚ました。白い天井が目に飛び込んでくる。体を起こそうとしたがどうも思うように動かないので目だけを動かしてあたりを見渡した。
 そこは天井と同じく白い壁に覆われ未知の機械が置かれた狭い部屋だった。いったいここは何処なんだろうと男が疑問に思う間も無く男の視界にこちらを覗き込むようにして見る人ならざる者の顔が入ってきた。
 一目見て人間でないと分かるその顔に男はギョッとして逃げようとする。が、やはり体は思うように動かない。男は明らかな非常事態に恐怖を感じてしまっていた。
 一方でその様子を見てか人外は落ち着いた優しい声音で男に話しかける。腹話術のように口の動きと出る音が合ってない奇妙な喋り方だった。
「傷に触る。まだ動かない方がいい。こちらの言葉わかるか?」
 恐ろしい見た目をした人外の、しかし友好的な態度を見て男は大人しく答えた。
「あ、ああ」
「分かった。あなた死にかけてた。わたし医療技術良かった。だから助かった」
「あ、ありがとう……、しかしすまない、実はさっきまでの記憶がないんだ。だから何がなんだか俺にはさっぱり……」
「記憶喪失か。仕方ない。それほど酷い怪我だった」
 人外は頷くような動作を見せると懐から小さい板を取り出した。板は人外の手のひらでバラバラに砕け拡散し宙空に漂う。それは次第に形を作り地球の姿をとった。
 人外はこともなげに地球の模型を指差す。
「これ、滅んだ」
 言うと模型は小規模な爆発を各地で起こしたかと思うと粉々になってしまった。粉々になった模型の欠けらはまた次第に収束して板の形をとり人外の手のひらへとポトリと落ちる。
 男はただ唖然として冷や汗を流していた。
「地球が、滅んだ?」
 男はとてもすぐには信じることができなかった。人外は淡々と続ける。
「わたしたち、地球とは違う星の人。私たち前々から地球滅ぶの知ってた。わたし滅ぶその前に生物を保護する役割だった。君一番最後だった。君怪我したのこちらの落ち度。申し訳ない」
 頭を下げ人と同じように謝る人外に男は違和感を覚えるものの、なんとなくこの目の前にいる生き物は嘘をついていないと言うことはわかった。
 宇宙人が居るというのも驚きだが地球が滅ぶなんて……。いやしかし、
「じゃあ、俺の他にも地球から助けてくれたってことか?」
 間をおかずに頷く人外を見て男はにわかに顔色が良くなった。
 男は記憶に残っている最愛の妻と娘の顔を思い出していた。地球は滅びたかもしれないけど人が生きているのであれば。幸運にも見た目はおっかないがどうやらこの宇宙人は信用できそうだ。これは案外悲観するものでもないかも知れない。
 と、男がそう思った矢先だった。人外はやはりなんでもないことのように言った。
「もちろん、助けた。君の他に地球の生き物一組一種類ずつ。人間は身体的に優れた君とメス。地球生き物一杯で大変だった」
 人外はまたしても板を取り出すとそれで件の女の顔を作った。男が全く知らない人の顔だった。少なくとも、男の妻の顔ではない。男は悟る。
「……つまり、俺の妻と娘は」
 男の脳内に先のバラバラになった地球のイメージが走る。
 男は目の前が真っ暗になっていた。



「何? 人間のオスが死んだ?」
「ああ。保護してから丁重に扱ってたら、突然舌を噛み切って死んだよ」
「バカな。自殺するような精神的苦痛は与えてないようにしたはずだぞ」
「でも本当なんだから仕方ないだろ。そりゃ地球は滅んだけれど優れた種の保存はできるはずだし不満はないはずなんだけどなあ」
 不思議だなあ、と首を捻る宇宙人。しかしすぐに、まあ一種類ばかし居なくなっても上は大目に見てくれるだろう、と考え直し任務を終えた祝いに嗜好品を楽しみ始めた。
 結局価値観の違いから人にとって巨大なウェイトを占めるそれを、宇宙人が理解することはなかった。