ワイが文章をちょっと詳しく評価する![81]
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オリジナルの文章を随時募集中!
点数の意味
10点〜39点 日本語に難がある!
40点〜59点 物語性のある読み物!
60点〜69点 書き慣れた頃に当たる壁!
70点〜79点 小説として読める!
80点〜89点 高い完成度を誇る!
90点〜99点 未知の領域!
満点は創作者が思い描く美しい夢!
評価依頼の文章はスレッドに直接、書き込んでもよい!
抜粋の文章は単体で意味のわかるものが望ましい!
長い文章の場合は読み易さの観点から三レスを上限とする!
それ以上の長文は別サイトのURLで受け付けている!
ここまでの最高得点は75点!(`・ω・´)
前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する![80]
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1508420228/ おー、来てる来てる。皆さんすごいなあ
俺は頑張って書き上げたら4千字もあったから、あーっ!と頭を掻き毟っているところです
>>627
ちゃうちゃう、ルールをよく読んで
ワイ杯は通常と違って1レス縛りが基本ルールだから、直接ここに書き込んで下さい
文字数はただの目安で、書き込めたらセーフ、エラーならアウトです すみません、知りませんでした
まだ参加されて居ない方に余計な情報を与えるべきではないという判断でしたが、裏目に出てしまいました。
随分とシビアなコンテストなんですね
少し出直します ネタ被りが怖くて早く早くと書き上げて速攻投稿したところ、荒だらけで死にたくなっている>>619です
もう一作書く……かあ…… 焼香の薫るその部屋は、悲哀に満ち溢れていた。ある者は啜り泣き、またある者は咽び泣きながら、僧侶の読経を傾聴していた。
ふと外に目を向けてみると、満開の桜が生える庭に今年初めてとなる春雪が降り始めていた。
一般的な葬儀の流れに則り閉式を終え、いよいよ出棺――最後の別れを告げる時間になった。
それぞれが思々の言葉を投げかけるその棺の中には、誰の遺体も入っていない。
去年の元旦の翌日の事。僕の妻は突としてその姿を消した。新生活が軌道に乗り始めて、円満な家庭を築こうとしていた最中、突然に、何の前触れもなく。
すぐさま警察が捜索を開始し、親族は心当たりのある妻の知人に寝る間も惜しんで連絡していた。が、見つからず。
時の流れは残酷だ。当時の天候等から判断され、彼女は失踪という扱いを受けた。捜査は打ち切られ、親族は彼女が生きているか死んでいるかも定かではない虚ろな状態で、今日のこの日まで生きてきたのだ。
棺には、彼女の代わりに遺品の数々が丁寧に並べられていた。
子供の頃にかわいがっていたネコのぬいぐるみ。
友達と大はしゃぎした様子がうつされた、修学旅行の写真。
一つ一つに彼女が宿っているようで、僕は込み上げてくるものをぐっと抑え込んでいた。話したい事はたくさんあるのに、彼女の前に立つと全てが無意味に消えてしまった。
「さようなら、愛しい人」
たったそれだけが、僕が彼女に向けて言えた唯一の言葉だった。座席に戻ろうとした途端、彼女の母が嗚咽を漏らしながら僕の胸倉を掴んだ。その腕に力は入っていなかった。
「アンタ……ッ! 守るって、大事にするって約束したじゃないのッ! どうして、どうしてこんなことに……っ!」
「…………」
僕は何も言い返せなかった。茫然とその場に立ち尽くして、彼女の父が引き剥がしてくれるのを見ていた。
「すまないね」
彼女の父は僕にそう言って、話を続けた。
「今日という日が待ち遠しかった。娘はやっと帰ってこれたんだよ。そしてやっと天国に送り出せる。ありがとう、一緒に待っててくれて」
家に帰ると、玄関の前に一人の女性がいた。去年、僕の職場に新卒で入社してきた後輩だ。
葬儀には来なかったが、ずっとここで待っていたのだろうか。彼女が羽織るトレンチコートは、少しばかり白い化粧がされていた。
「あ、あのっ。お腹、すいてませんか! 何か作りますよ」
僕の窶れた様子を見るなり、彼女は僕にそう言った。それは彼女なりの配慮だったんだろう。
「ごめんよ、誰とも話す気がないんだ」
僕はそれを淡々と断って、玄関の鍵を開けた。それは本心だった。何もする気が起きない。どうしてきみはそんな簡単に、遠くへ行ってしまったんだ。
「先輩に必要なのは心の安静です。ご飯を食べてください。そしたら帰りますから」
「……勝手にしろ」
彼女の言葉の大半が頭の中に入ってこなかったから、僕はてきとうにそう答えた。
彼女は微かに笑みを浮かべながら、僕の――独りで過ごすにはあまりにも広過ぎる――寂れた新築の家に足を踏み入れた。
彼女は僕に夕食を作ってくれるだけでなく、部屋の掃除までしてくれた。僕はただ、リビングのソファで目を瞑って横になりながら、その音を静かに聞いていた。
「少し羨ましかったな。私、先輩とこういう暮らしをしてみたかったんです」
二人で食卓を囲みながら、彼女は不意にそう言った。温かいシチューから昇る湯気は、彼女の表情を曖昧にぼかしていた。
「そう」
僕は聞く耳持たずと言った様子で、そのシチューをトーストと合わせて頬張っていた。素っ気ない態度が嫌だったのか、彼女は食事を中断して立ち上がり、僕の横まできて、僕の頭を胸元に抱き寄せた。
突然のことに、僕も食事を中断せざるを得なくなった。
「先輩、どうか立ち直ってください。私はいつまでも待ちます。先輩がしてほしい事があれば、なんでもしますから。だから、もう――」
もう、妻の事は忘れてください。彼女はきっと、そう言おうとしていたんだろう。
僕はそれを制止して、彼女を床に押し倒した。彼女は驚いた様子だったが、抵抗はしなかった。
僕はその場で彼女を抱いた。いや、犯したと言うべきか。
妻の事を思い返そうとするかのように。あるいは、妻の事を忘れようとするかのように。僕は無心でその身体を貪った。
やがて彼女は僕の上でみだりに腰を振り、そして果てた。
「ずっと、貴方とこうしたかったの」
彼女はそう言って、唇を重ねながら僕を抱き締めた。僕も彼女の背に手を伸ばし、それを受けいれた。
「愛してる」
誰に向けたかも曖昧な言葉を、僕は呟いた。それから僕は何度も彼女を求め、彼女は僕を抱擁した。
さようなら、愛した人。僕の心の何処かで、再び凶器が研がれる音がした。 焼香の薫るその部屋は、悲哀に満ち溢れていた。ある者は啜り泣き、またある者は咽び泣きながら、僧侶の読経を傾聴していた。
ふと外に目を向けてみると、満開の桜が生える庭に今年初めてとなる春雪が降り始めていた。
一般的な葬儀の流れに則り閉式を終え、いよいよ出棺――最後の別れを告げる時間になった。
それぞれが思々の言葉を投げかけるその棺の中には、誰の遺体も入っていない。
去年の元旦の翌日の事。僕の妻は突としてその姿を消した。新生活が軌道に乗り始めて、円満な家庭を築こうとしていた最中、突然に、何の前触れもなく。
すぐさま警察が捜索を開始し、親族は心当たりのある妻の知人に寝る間も惜しんで連絡していた。が、見つからず。
時の流れは残酷だ。当時の天候等から判断され、彼女は失踪という扱いを受けた。捜査は打ち切られ、親族は彼女が生きているか死んでいるかも定かではない虚ろな状態で、今日のこの日まで生きてきたのだ。
棺には、彼女の代わりに遺品の数々が丁寧に並べられていた。
子供の頃にかわいがっていたネコのぬいぐるみ。
友達と大はしゃぎした様子がうつされた、修学旅行の写真。
一つ一つに彼女が宿っているようで、僕は込み上げてくるものをぐっと抑え込んでいた。話したい事はたくさんあるのに、彼女の前に立つと全てが無意味に消えてしまった。
「さようなら、愛しい人」
たったそれだけが、僕が彼女に向けて言えた唯一の言葉だった。座席に戻ろうとした途端、彼女の母が嗚咽を漏らしながら僕の胸倉を掴んだ。その腕に力は入っていなかった。
「アンタ……ッ! 守るって、大事にするって約束したじゃないのッ! どうして、どうしてこんなことに……っ!」
「…………」
僕は何も言い返せなかった。茫然とその場に立ち尽くして、彼女の父が引き剥がしてくれるのを見ていた。
「すまないね」
彼女の父は僕にそう言って、話を続けた。
「今日という日が待ち遠しかった。娘はやっと帰ってこれたんだよ。そしてやっと天国に送り出せる。ありがとう、一緒に待っててくれて」
家に帰ると、玄関の前に一人の女性がいた。去年、僕の職場に新卒で入社してきた後輩だ。
葬儀には来なかったが、ずっとここで待っていたのだろうか。彼女が羽織るトレンチコートは、少しばかり白い化粧がされていた。
「あ、あのっ。お腹、すいてませんか! 何か作りますよ」
僕の窶れた様子を見るなり、彼女は僕にそう言った。それは彼女なりの配慮だったんだろう。
「ごめんよ、誰とも話す気がないんだ」
僕はそれを淡々と断って、玄関の鍵を開けた。それは本心だった。何もする気が起きない。どうしてきみはそんな簡単に、遠くへ行ってしまったんだ。
「先輩に必要なのは心の安静です。ご飯を食べてください。そしたら帰りますから」
「……勝手にしろ」
彼女の言葉の大半が頭の中に入ってこなかったから、僕はてきとうにそう答えた。
彼女は微かに笑みを浮かべながら、僕の――独りで過ごすにはあまりにも広過ぎる――寂れた新築の家に足を踏み入れた。
彼女は僕に夕食を作ってくれるだけでなく、部屋の掃除までしてくれた。僕はただ、リビングのソファで目を瞑って横になりながら、その音を静かに聞いていた。
「少し羨ましかったな。私、先輩とこういう暮らしをしてみたかったんです」
二人で食卓を囲みながら、彼女は不意にそう言った。温かいシチューから昇る湯気は、彼女の表情を曖昧にぼかしていた。
「そう」
僕は聞く耳持たずと言った様子で、そのシチューをトーストと合わせて頬張っていた。素っ気ない態度が嫌だったのか、彼女は食事を中断して立ち上がり、僕の横まできて、僕の頭を胸元に抱き寄せた。
突然のことに、僕も食事を中断せざるを得なくなった。
「先輩、どうか立ち直ってください。私はいつまでも待ちます。先輩がしてほしい事があれば、なんでもしますから。だから、もう――」
もう、妻の事は忘れてください。彼女はきっと、そう言おうとしていたんだろう。
僕はそれを制止して、彼女を床に押し倒した。彼女は驚いた様子だったが、抵抗はしなかった。
僕はその場で彼女を抱いた。いや、犯したと言うべきか。
妻の事を思い返そうとするかのように。あるいは、妻の事を忘れようとするかのように。僕は無心でその身体を貪った。
やがて彼女は僕の上でみだりに腰を振り、そして果てた。
「ずっと、貴方とこうしたかったの」
彼女はそう言って、唇を重ねながら僕を抱き締めた。僕も彼女の背に手を伸ばし、それを受けいれた。
「愛してる」
誰に向けたかも曖昧な言葉を、僕は呟いた。それから僕は何度も彼女を求め、彼女は僕を抱擁した。
さようなら、愛した人。僕の心の何処かで、再び凶器が研がれる音がした。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>616
>>619
>>625
>>626
>>632
只今、五作品!(`・ω・´) 作者の個性が花開く! 天から何かが降ってきたと思った瞬間大爆発が起こった。建物は少しの壁を残して吹き飛んだ。俺は走った。濛々と煙の上る中、瓦礫に手をかけ一枚一枚瓦礫をどけていくと、小さな手が見えた。俺は上にのしかかっている瓦礫をどけて
手の主を見た。「マーチン!」一つの絶望を噛み砕く暇も無く、マーチンの胸に乗せられた手が目に入った。指には見覚えのある結婚指輪が光っている。瓦礫をどけると、血にまみれ、うつろな目をしたコートニーがいた。
「ああそんな、神様……」涙が溢れてこめかみを流れるのを感じて俺は飛び起きた。周りを見渡すと寝室だった。夢でよかった。しかし今だ動悸は止まらなかった。寝室のドアが開いた。「パパどうしたの?」俺は息を整えて引き攣り笑いを作った。
「なんでもないよ、おいで」とことこと走って来たマーチンが胸に飛び込んで来た。「安心して、マーチンとママはパパが守るからね」俺はマーチンの背中から右手を放して掌をじっと見た。ラスベガスから北西に45マイルにある
空軍基地が俺の職場だ。鷲のマークの制服に身を包み、車で3分かけて出勤する。職場でみんなと挨拶を交わし、近況などを話しながら軽いジョークを放つ。それからモニターに向かうのが日課だ。ヘッドセットを被ると、俺はコーヒーを一口飲んで
溜息をつく。クソ面白くもない日常業務の始まりだ。
どっと疲れて帰って来ると、マーチンが笑顔で迎えてくれる。疲れが吹っ飛ぶ瞬間だ。マーチンを抱いてダイニングに入るとコートニーが振り返って笑う。俺は家に帰って来た。毎日その幸せを感じる。
町には大きなクリスマスツリーが飾られ、イルミネーションが点滅していたが、今の俺にはくだらないお祭り騒ぎと化してしまった。今日の業務もきつかった。だがそんな事は問題じゃない。その命令は俺の心を灰色に変えてしまった。
「そんな、あんまりです、イブの夜に仕事なんて」窓を眺めていたゴードンは、後ろで手を組んだままゆらりとこちらへ振り返った。そしてこけた頬の上にあるぎょろ目で俺をじっと見た。「イブだからといって状況は待ってくれない」
「妻の誕生日の時も仕事してたんですよ」「君の忠誠心には国が報いてくれる、以上だ」俺は絶望した。「そんな、あんまりだ」
「あなたはいつもそう、合衆国のためだと言えばなんでも許されると思ってる! たかが通信事務じゃない、何故そんなにあなたが頑張らなくちゃならないの?」ヒステリックなコートニーの声が俺の心を追い詰める。
しかしここは正気を保つんだ。「わかってくれ、こうしている間にも仲間がアフガンで戦ってるんだ、彼らにクリスマスはない、俺だって頑張らなくちゃ」俺は自分を強引に納得させた理由をそのまま妻にも放った。
「ママ……」振り返るとドアが少し開いてマーチンが目を擦っている。「あらあら、起きちゃったのね、なんでもないのよ」コートニーはマーチンの所まで行くと、腰を屈めてマーチンを促しながらこちらへ振り返って睨んだ。そして
静かにドアの向こうに消えた。俺は頭を抱えてソファーに腰を落とした。
朝、「行って来るよ」という言葉にマーチンは笑顔で手を振ったが、コートニーは背中を向けたままだった。今日もモニターの前に座り、いつもの手順を繰り返す。そしていつものようにヘッドセットから声が聞こえてくる。
「UAV、安定飛行、準備が整いました」衛星通信が確立したのだ。しばらく砂漠を飛んでいると集落が見える。その中に一つの建物が見えた。目標Cだ。建物の前に人影が見える。
「少佐、建物の中に何人かの女性と子供が入っていきます、攻撃しますか」「問題ない」「でも……」「予定通り遂行しろ」そんな……。手が震えた。暑くもないのに汗が溢れ出てくる。俺はふと自然に歌を口ずさんでいた。
「ジングルベル、ジングルベル、鈴がなる、今日は楽しいクリスマス」ターゲットを補足した事をメインモニターが知らせる。レバーのスイッチを押すと、噴射された熱気で画面がゆらめく。建物は音も無く爆発した。
「ジングルベル、ジングルベル、鈴がなる」画面が赤外線モードに変わり、爆心以外にもたくさんの熱源が散らばっている。中にはほんの小さな熱源もある。「今日は楽しい、クリスマス……」俺は立ち上がってヘッドセットを取った。
「そうだ、今日はクリスマスイブだった……、帰らなきゃ」「おい!」隣のマックスが何か喚いている。うるさい。すべてどうでもいい。
家は真っ暗だった。ツリーのスイッチを入れてみると、点滅するLEDが切れかけのネオンのようにも見える。テーブルの上に何か書かれた紙がある。俺は棚からウィスキーを出すと、グラスに注いで一口飲んだ。ツリーは点滅を繰り返している。
壁に俺の影が角度を変えながら投影されている。俺はウィスキーを一気に飲み、鞄から銃を抜いてこめかみに当てた。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>616
>>619
>>625
>>626
>>632
>>634
只今、六作品!(`・ω・´) 私は作品を書くので、今回は観客でいこうかなと。
さて、恋愛小説というのは何が楽しいのだろうか!?
戦国物であれば、武将のアウトロー的な所が好きだとか。
恋愛小説の醍醐味というのは人それぞれでしょうが、どういった点にあるのか知りたいですが、
皆様の意見はどうでしょうか? >>636
ドロドロの人間関係に特化した愛憎劇!
甘酸っぱい果実が程良く熟れるまでを描いた成長物語!
甘ったるい世界に終始した現実逃避用の愛のバイブル!
これらの内容を好む人間にはたまらない、目で味わうスイーツと云ったところか!(`・ω・´) ワイは腹にずしりと響く、昼ごはんを食べるとしよう!(`・ω・´) うーむ。今回はいつもに増してレベルが高いな。
>>632の文章の美しさには唸ったし、>>634も面白い。
そろそろ変化球が投げ込まれるころか?
書き込めない
書き込めました。すみません。 ふと気がつくと、僕は見覚えのある西洋調の部屋の床に仰向けに倒れていた。
戸惑いながらもぐるりと部屋を見渡すと、ひっくり返ったオルガンや天井から落ちて粉々に広がるシャンデリアの残骸、ぼろぼろのドレスを着て死体のように転がる人形などが目にとまった。
それらを見て、僕の心臓は輪郭がはっきりと分かるほどに動きを速めだす。とにかくこの部屋から出たかった。
立ち上がり、物を避けながら出口を探す。朽ちた青を基調とした神話の描かれた部屋の壁を伝って歩くと、洋箪笥の陰に僕の腰の高さにも満たない一つの小さな扉を見つけた。
腰を屈めてその扉をくぐると、そこは壁全体がガラス張りで、淑女たちがバレエを練習するために用意されたような部屋だった。
ひび割れたり欠けたりしている四方のガラスに、黒い学生服を着た僕が写りこむ。悲壮な表情の僕が僕を見返していた。
突然背後で鏡が割れる音が響いた。慌てて後ろを振り返ると、僕一人が通れそうなほど大きくガラスが割れていた。割れた隙間から隣部屋が見える。
誰かに導かれるように、僕はその隙間に身体をねじ入れて隣部屋へと移る。
隣部屋は畳が敷かれた古い日本家屋のようだった。部屋の真ん中には黒い椅子が置いてあり、誰かがそれに腰掛けていた。
回り込んで座っている人物の顔を覗き込むと、僕は思わず後ずさった。座っていたのは僕と同じ学校の制服を着た女子だった。
「雛子……」
雛子は、僕に一方的に想いを寄せていた同じクラスの女の子だった。彼女は座ったまま眠っているようだ。
雛子を起こさないようにそのまま後ずさりして逃げようとしたその時、雛子は閉じていた目を開き食虫植物のように僕に抱きついてきた。
恐怖で身動きを取ることができなかった。赦してほしかったが、畏れで噛み合わない僕の口は謝罪の言葉を紡ぐことさえできない。そして抱き返すこともできなかった。
しっかりと抱きつく雛子の背中越しに、僕は自分の両手を見る。そこで気づいたのだが、僕はいつの間にか右手に鮮やかな色の手毬を握っていた。
その手毬が水風船のようにばしゃりと割れて、中から赤い液体が零れた。手を伝う生温かさ。割れた手毬の中には誰かがいた。
雛子に抱きつかれたままの僕は、その誰かと目が合ってしまった。その誰かは、紅く染まったおかっぱ頭で着物を着た小さな女の子だった。
無表情だった女の子は、僕をじっと見上げたままにやりと嗤った。すると僕の腕の中にいた雛子が煙を上げて溶けだした。
煙を上げながら肉が溶け、骨となり、その骨も溶けて塵と霧へと帰っていく。僕はどう足掻いてもそれを止めることができない。最後に残った雛子の着ていた制服も、溶けて無くなってしまった。
何も僕の手に残らなかった。
「あーあ、溶けてなくなっちゃった」と、手毬から生まれた女の子が僕を嘲る。
悪夢はそこまでだった。僕は、いや俺は夢から目が覚めた。嫌な汗にまみれながら俺は夢を反芻する。
あの夢で見た部屋は、全て俺が過去に実際に訪れた事のある場所だった。
6年前……中学の修学旅行……突然の嵐……乗っていた船の沈没……無人島への上陸……廃墟同然の異人館……閉じ込められた何人かのクラスメイト……様々な部屋、部屋、部屋。
そして雛子の消失。過去から逃げきろうと足掻く俺を、悪夢は逃がさない。 師匠からせっかく出していただいた課題の短編を投げ出してワイ杯作品を書いてしまった……師匠、すみません。だってサスペンスって難しいんだもの…… >>637
そういう視点で恋愛小説というジャンルが受けているのですね。それらを全く考慮せず、
書いていたので目から鱗です。男と女の愛憎劇みたいな恋愛ものは、瀬戸内晴美がいいのかな。
川中島も佳境に入ったので、書き終わったら短い恋愛ものでも。 俺は血まみれになった手を見て怖ろしくなった。震える手の指を一本一本引き剥がすように伸ばすと、大型ナイフは落ちてコンと床板に刺さった。仰向けに倒れて背中から血の花を咲かせる翔太は体を動かす事ができず、目だけで俺を見た。
「何見てる、お前がちょっかい出すから悪いんだ」一度ふうと息を吐き出すと、翔太の目は焦点を失った。窓から差しこむ西日が目を刺して、はっとした俺はバッグを掴んで空き家を飛び出した。水場を探そうと思った。近くにいつも通りかかる
公園があったはずだ。俺は公園を見つけると、真っ直ぐに公衆トイレに向かった。するとこんな時に限ってトイレから女性が出てきた。しかもその女性を見て俺は目が飛び出た。
「あら、遼介、偶然ね、今から待ち合わせ場所に行こうと思ってたの」俺は咄嗟に手を背中に回した。結月は笑顔で近くまで来ると表情を変えて右側を覗き込んだ。「手、どうしたの?」「あ、いや背中が痒くて」俺は手を動かしたが、今度は
背後から会話する人の声が聞こえて来た。俺は後ろの人にも結月にも見えない角度に背中を向けた。
「なんか怪しい」懐疑の目をした結月は素早く回り込んだ。俺も応戦して体を向ける。「一体なーに?」俺は声を裏返しながら甲高く言った。「ぷっ、プレゼント」
結月がにっこりした。「え、嬉しい、なになに、はやくちょうだいよ」俺は引き攣りながらも余裕を装う。「そぉおれぇはぁあーとぉでぇのおたのしみー」
映画の次の上演までテラスで時間を潰す事にした。俺は壁際の席に陣取った。左手で砂糖のスティックを持って食いちぎり、コーヒーに入れる。同様にミルクのパックを開けて垂らす。そしてスプーンで混ぜる姿を
結月は口を開けてこちらを見ている。まずい。プレゼントなんかもっちゃいねえ。あるのは血濡れの手だけだ。どうする、考えろ。手はトイレで洗うとしても袖はそうはいかない。もうジャケットも血で汚れているはずだ。
この状況を打開するには……。そうだ。「ちょっとここで待ってて」「え、いいけど、なんか今日の遼介変だよ」「あ、あはははは」俺は結月の懐疑の視線を浴びつつ、後ずさってテラスを降りようとして豪快に転げ落ちた。
慌てて跳ね起きると大丈夫という表情を作りながら後ずさって宝石店に向かった。そして防犯カメラを気にしながらへんな体勢で、ネックレスを選ぶと、口で財布を咥えながらカードを取り出す。店員が眉間に皺を寄せて斜め目線で見ている。
「お待たせ」俺は両手を後ろに回して、縛られているような状況で戻って来た。そしてカニ歩きで席を回って座ると、左手を出した。「え、何々」箱の形を見ればわかるだろう。しかし俺は優しく言った。
「開けてみて」嬉しそうに箱を開けた結月は顔を輝かせた。「素敵!」そりゃそうだろう、10万もしたのだから。付けてくれと言われたらどうしようかとハラハラしたが、結月は嬉々として自分でつけた。「どう?」
「うん、凄く似合うよ」作戦は成功だ。色々無理がある設定を宝石の輝きが消し去った。それから町を歩く時も、映画館の中でも、誰にも背後を取られないように、ひらりひらりと身を躍らせた。回りからの好奇の目が痛い。
結月は時々ネックレスを摘み上げてニヤニヤしている。エレベーターを待つ間、ドアに背を向けていたが、開いたドアの向こうに人の気配を感じた。俺は高速回転しながらエレベーターに入り、奥の壁に背中を預けようと思ったが
そこにはなんと鏡がある。俺はさらに高速回転しながら急カーブし、側面の壁にピタリと張り付いた。顔を顰めて出て行った客と入れ替わりに人が入って来た。「な、何階ですか?」結月は鏡に向かって両肩に手を置き、胸元を見ている。
「面白かったね」「ああ、そうだな」外に出るとすっかり日も暮れていた。正直映画の内容なんて覚えちゃいない。最後にタクシーに結月を乗せて、口に咥えた財布から1万円札を出して運転手に渡した。俺はタクシーに乗った結月に聞いた。
「あの、翔太の事は……」一瞬ぽかんとした結月は笑って答える。「断ったに決まってんじゃん」俺は安心して笑った。同時にじゃあ殺す必要までは無かったかと少し後悔した。タクシーのドアが閉って結月が手を振った。タクシーが動き出す。
走り去るタクシーに向かい、俺は右手を出して手を振った。思わず笑いがこみ上げる。守りきった。背中に回した血塗れの手を結月は知らない。 >>631
純文学的な表現、素晴らしい。
体言止めがいい効果を出しています。
>焼香の薫るその部屋は、悲哀に満ち溢れていた。ある者は啜り泣き、またある者は咽び泣きながら、僧侶の読経を傾聴していた。
>参列者の集まっている部屋には焼香の匂いと共に悲哀が満ち溢れていた。僧侶の読経を傾聴しながら、啜り泣く者もいれば、咽び泣く者もいた。
なんて表現は如何でしょうか? 差し出がましく申し訳ないです。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>616
>>619
>>625
>>626
>>632
>>634
>>646
只今、七作品!(`・ω・´) 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
只今、八作品!(`・ω・´) >>648
>>547です。先日は突拍子もないお願いをしてしまい、大変申し訳ございませんでした!
アイデアがわき、どうしても「ロシア人の曾祖母」というテーマで書きたくなりご許可をと思った次第なのです。
けれど、突然ですし、何より作者さんにとって設定はとても大事なものです。
それを簡単に貸してくれなど、本当にとんでもないことを言ってしまいました……
深く深く反省しています……どうか、お許しください!
ちなみに自分は恋愛小説はあまり読んだことがありませんので、醍醐味はよくわからないんですよ。
勉強不足が情けないばかりです(汗) >>650
ワオ、ありがとうございます
悲哀に「満ち溢れる」という言葉に、そこに人が多くいるという情報を圧縮しています。
一レスという制限の中で、ハナシを書くてのは中々に窮屈で、刺激的な良い経験になりました。
日ごろ、のびのびと書いてるなかで 情報の描写の取捨選択を極限なまでに迫られるという状況はなく、
いかに多くの蛇に足を着けてるを痛感させられました。
読み返してみると、切削過多な部分も見られ、反省中であります。
じゃ。 三十路を迎えたばかりだった。師走の昼下がり、俺は病室でひとり窓の外を眺めていた。古びた木のベッドに浅く腰掛けて、小さく息を一つ。不意に込み上げてくる咳に顔をしかめた。
「ゴホ……ゴホッ」
痰絡んだ咳。すぐには止まらなかった。何度も咳き込んで、時折嗚咽を交えた。息をする間もない。しばらくして、ようやく治まった。胸の痛みに耐えながら、覆っていた手を見る。
泡沫を伴う血は、蒼白な掌を美しいほどに赤く染めた。宣告は突然だった。一年ほど前である。
「労咳です」
町医者が深刻な顔つきで言った。
「え、何かの間違いでしょう。少し風邪が長引いているだけですよ」
思わず笑った。医者は笑わなかった。自分に限ってそんな事はない。そう疑って止まなかった。
洗面台で汚れた手を洗い流す。それから、水を含んで鉄臭い口内をすすいだ。顔を上げると鏡に映る自分と目が合った。
ひどく疲れた顔をしている。頬はこけ、目に生気もない。なんて様だ。無性に可笑しくなって、濡れた手をひたいに持っていくと声を出さず笑った。
ここ数日の間に、三度喀血した。今日が四度目である。月日を追う事に増していく咳。肺が締めつけられるような痛みに襲われる事もしばしばあった。
食欲も減った。食べ物が喉を通らなくなり痩せていく自分を鏡に映し、虚ろな視線を漂わせる。こうやって人は堕ちていくのか。次第に死というものが現実味を帯びるようになった。
あとどれくらい身体は持つだろうか。半年か三ヶ月か、それとも……。
息を吐く。と、部屋の外から誰かが近づいてくる気配がした。蛇口を閉め、白い手ぬぐいで濡れた手と口を拭く。口元に血が付いていたらしく、手ぬぐいが一箇所赤くなった。
コンコン。ノックの後、ドアが開いた。妻だった。
「体調はどう?」
思いわずらう優しい声色に、目尻を下げる。
「やぁ、今日は珍しく気分が良いんだ」
気づかれないようにそっと手ぬぐいを懐へ仕舞った。
「そう。よかった。さっき先生と話してきたわ。変わりないみたいね」
「あぁ、たまには外へ散歩にでも行こうか」
「駄目よ。身体に悪いわ。先生だって」
「平気さ」
「でも」
「頼む」
僅かな沈黙の後「……少しだけね」と不安を滲ませながら妻は笑った。闘病生活は苦しかった。だからこそ、彼女の存在は有り難かった。
寒空の下、病院の周りを二人並んで歩いた。冷たい風が頬を撫でる。人気はない。
「寒くない?」
「平気だよ」
「辛くなったら言ってちょうだい」
「だから、平気だって」
「わかった。もう言わないわ」
「ありがとう」
カランコロンと下駄を鳴らす。と、妻の鼻緒が切れかけている事に気付いた。
「ちょっと止まって」
「なに?」
懐から手ぬぐいを取り出し、血の付いた部分を隠しながら縦に割く。
「ほら、下駄を脱いで。鼻緒を直してやるから」
「え」
「いいから、ほら」
半端強引に下駄を脱がせると、その場に屈み鼻緒を付け替えていく。
「もうこんな寒い所で……」
という妻の声は心なしか嬉しそうであった。
残り少ない余命を知った時、妻の絶望的な顔が脳裏に焼き付いて離れない。代わりに自分が死にたい、と言って妻は泣いた。ごめんと謝った。妻は絶えず頬を濡らした。
余命を知ってから今日まであっという間だった。妻は寄り添い懸命に看病してくれた。そんな彼女を心から愛していた。笑うとえくぼができる可愛い妻。
こんな時間を過ごせるのはいつまでだろうか。共に居られるのは……。割いた手ぬぐいを穴に通していく。下駄を裏返し結んだ。その時だった。突然、激しく咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホ」
屈み込んだ体勢のまま、膝をついた。喉の奥から込み上げるものを感じた。片手で覆った瞬間、生暖かいものを受け止めた。
「あなたっ」
悲痛な声が降ってくる。妻が背中に手をあてた。今にも顔を覗き込もうとしている。見せたくない。このような喀血した無様な姿を。
視界が霞む。呼吸が上手くできない。ずっと隠していた。喀血した事を知られたくなかった。どうせばれてしまう事だと分かってはいた。それが今かほんの少し後か、それだけの事。
だが、それでも今はーー。顔を上げると同時に妻を抱きしめた。強く引き寄せ、顔を見られないよう身体をぴったりと密着させる。
「っ……あなた?」
「なんでもない」
「え?」
「なんでもないよ。ただ……少しだけこうしていたいんだ」
俺はもうすぐ死ぬ。けれど、今はまだ生きている。こうして妻の温度を感じている。
「……あなた」
当惑した妻の声。愛する者を置いて、先に逝くのが辛い。背中へ回す手に力を込めると、瞼を下ろした。 三十路を迎えたばかりだった。師走の昼下がり、俺は病室でひとり窓の外を眺めていた。
を
三十路を迎えたばかりだった。師走の昼下がり、俺は病室で一人窓の外を眺めていた。
に訂正します。 蛇口を閉め、白い手ぬぐいで濡れた手と口を拭く。
を
蛇口の栓をひねり水を止めると、白い手ぬぐいで濡れた手と口を拭く。
に訂正します。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
>>655
只今、九作品!(`・ω・´) >>657
どうぞ、お貸ししますよ! どんどん使ってください! 「では、会議を始める」
パーティーゲーム研究部部長、仁天道万里夫は高らかに宣言した。
「今日の議題は、来週の日曜に迫ったオカルト研究部との合同クリスマスパーティーについてだ」
「はい、部長!」 部員の一人が手を挙げた。
「何だね、名婿伯男くん」
「未だに信じられないんですけど、本当にうちの部と合コンなんてやってくれるんですか?」
「合コンではない、合同クリスマスパーティーだ! あくまで部活動の一環としての公式行事だぞ!」
「は、はい。ごめんなさい」
「まあいい、疑いたくなるのも当然だ。何しろ相手はあのオカ研。部員が女子のみでしかも校内屈指の美少女揃いだ。ちょっと変わってるけど」
うんうん、と全員が頷く。
「この件に関しては、副部長が力を尽くしてくれた。みんな、拍手」
パチパチ…と人数相応のささやかな拍手に迎えられて、副部長の小波時芽萌が立ち上がった。
「えー、本日はお日柄も良く」
「前置きはいいから」
「あ、そお? まあ要するにだ。オカ研はオカ研でで他の部に声をかけたらしいけど、全部断られたそうだ。だから心配するな、これは確実な話だ」
「「おおー」」 歓声が上がる。美少女揃いがどうしてそんなに断られたのか、とつっ込む者はない。
「そこでだ」と、再び部長。「我がパゲ研としては、彼女らが気に入ってくれるようなはオリジナルゲームを用意したい」
「はい」 手を挙げたのは、2年の泰斗印兵衛だ。
「では僕が先日作った『人生山あり谷ありゲーム』を」「却下だ!」 部長が即答する。
「どうしてですか!」
「当たり前だろ、何が山あり谷ありだ。最初から最後まで借金まみれのどん底続きで、全員が鬱で不登校になりかけたじゃないか。しかも終わるまで三日掛かりだ」
「三日かかれば必然的にお泊り会になるじゃないですか」
「「むっ!」」 全員が動きを止めた。
「い、いや駄目だ。学校の許可が下りない」
「ちぇっ」 渋々と引き下がる。
「という訳で、一つ小道具を用意した。これだ」 部長が取り出したのは、マネキン人形の手首だった。しかも…。
「な、何ですかこれ。気色悪い」 赤い絵の具を塗りたくられた、血塗れの右手だった。
「これを使ったゲームを考えて欲しい」
うーん、と皆が腕を組んで唸る。確かにこれはあの変人もとい美少女達にはウケそうだが、これをどうゲームに活用すればいいのか。
「はい!」「はい、泰東印兵太くん」
「この手首をテーブルに置いてですね」「ふむふむ」「エイッ、と回します。クルクル回って止まった時に手首くんに指された人が負けです」「で?」「終わりです」
「誰か他にないのかあ? ほらサタン、悪魔と書いてサタン。お前、一番オカルトっぽい名前なんだから、何か言えよ」
「えー、俺っすかあー」 泰斗と同じ2年の瀬賀悪魔だ。
「オカルトっつーかー、ホラーはどうっすかー。この手首に襲われるーみたいなー」「おっ、いいねえ。で?」
「みんなで丸くなってー。誰かの背中んとこに手首を置くんすよー。でー、それに気づかないとこいつに襲われるっつーかー」
「誰がそれを置くんだ?」「んーっ……」 悪魔はそこで首を捻ってしまう。
「じゃあ、ゲームマスター的なのがいればいいんじゃないか?」 と小波。
「おー、ゲーマスか。でも一人だけ仲間外れみたいで可哀そうだな」
「じゃあ交代で」「そうだな」「どのタイミングで?」「勝ち負けはどうやって決めるの?」
次第に議論が熱を帯びてくる。元々、こういう事は大好きな連中なのだ。
「ゲーマスはメンバーの周りを回りながら、狙った所で手首を置くんだ。メンバーはゲーマスが通り過ぎるまで振り向いてはいけない」「いいね!」
「狙われた者は手首を見つけたらそれを取ってゲーマスを追う。ゲーマスがもう一周する前にタッチしたらそいつの勝ち」
「タッチだと!」「そんなことしていいのか!」「されてもいいのか!」「いいだろ、そういうルールなんだから!」「そうだそうだ!」 大盛り上がりの部員達。
「よし、これで行こう! タイトルは『背中に回した血塗れの手をあなたは知らない』だ!」
「「おおおーっ!!」」
そして、次の日曜日。
「というルールだ。どうだ、世界のどこにもないオリジナルゲームだぞ」
得意満面の部長に向かって、オカルト研究部部長銀河遊穂は、オカ研特製闇鍋をかき混ぜながら申し訳なさそうに告げた。
「仁天道くん、それって…ハンカチ落としだよね……」 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
>>655
>>661
只今、十作品!(`・ω・´)……え! ネタ被りって、いうほどこわいものでもない?
完全な被りをつくるには、CtrlとCを押さねばならないですから
展開が被ることはあれど、書き手の注ぐ調味料が同じになることは、ありえないです >>653
スミマセン、間違えました、ドンドン使って下さい! お貸ししますよ! 長いワイスレ杯の中でもネタが被る事なんてほぼないよ
お題の縛りがきつくて似たような傾向になるってのは何度かある
しかし今回のお題でネタが被る事はほぼないと断言する ていうか古参て今何人いるのかな
1年以上いる人手を上げてノ 弾き出された球が腹の中を進んでいった。
それが終わり、ごぼり、ごぼりと開口部から血が漏れ落ちる。同じく血を含んだ組織が吐き出されていく。
きっと球も一緒に落ちたのだろう。
動けない。
身体はどんどん重くなり、節々がこわばる。
体表だけ熱を帯びて、そのくせ寒気が酷い。誰か温めてくれないものか。
腹部が重い。差し込むような激しい痛みを主旋律に、消えない鈍痛は通奏低音。ただの腹痛であれば良かったのに。
目が霞む。意識が保てない。頭から血の気が引き、こちらも痛み出す。ガンガンと、すぐに激痛に変わる。
どこもかしこも痛い。
血の流れ出す源を清潔な紙越しに手で押さえれば、手先が真っ赤に染まった。
不用意だった、後悔を覚える。心臓が異様な程早く打った。
血はまだ止まらない。
突如、電子音が鳴り渡る。耳に障る音だ。
ゆっくりと音を鳴らす機器に片手を伸ばし、そっと触れた。
画面が切りかわる。明るい光が目を打った。
「大丈夫ー? 生きてるかー?」
スマートフォン越しの呑気な声に、殺意を覚える。
「あー、なんとか……ごめん、今日は無理……頭痛いからこれから横になるわ……本当に大丈夫だから……じゃね」
うっさい、と声には出さず会話を切った。
毎月のことだ、たまたま今日が不味かっただけ。
背中に回した血塗れの手を、あなたは知らない。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
>>655
>>661
>>672
只今、十一作品!(`・ω・´) >>666
あ、ありがとうございます……本当に申しわけないばかりです。
今回は大変ご迷惑をおかけいたしました!
でも、こんなに言っておきながら、力のない自分ですので、書いてもきっと駄作になるかと思いますと、恥じ入るような気持ちでいっぱいです。
駄作を覚悟して、がんばって書きたいと思います(ワイスレ杯後になりますが…汗)
本当にありがとうございました! >>674
創作から遠ざかってた時期があるから、その間だいぶ抜けてるけどね >>676
失敗してもいいじゃん! 私は失敗ばかりして、少しは文章は書けるようになった感じだから。 >>679
そうですね……いっぱい失敗してたくさん恥をかきたいと思います。
本当にありがとうございました! 長かった戦争が終わり、僕も兵役から解放されて家に戻ることが出来た。
ロンドンの大学で講師をしていた僕が徴兵されたのは、2年前。避けようのないこととは言え、身重の妻を残して戦場へ旅立つのは、身を引き裂かれる思いだった。
戦場は、正に地獄だった。
血と泥と硝煙が入り混じったゴミ溜のような世界で、敵にも味方にも追い立てられ、走り、もがき回る毎日。銃を撃っても人を殺している実感など少しも湧かない。命ぜられるままにただ引き金を引き続けた。
そんなある日、僕は一人斥候に出ていた時に敵兵と遭遇してしまった。
向こうも驚いたのだろう、いきなり飛び掛かってきた。僕も無我夢中で抵抗し、そして気が付くと僕はナイフを手に地べたに座り込み、相手は目の前に倒れ伏していた。
僕はその背中にナイフを刺した。体中に返り血を浴び叫び声を上げながら、動かぬ敵の体に、何度も何度も。
この日から、僕は銃を撃つ度に人を殺しているのだという感覚から逃れることができなくなった。
指先に力を込めると、遥か遠方で人影が崩れ落ちる。無数の銃弾が飛び交う戦場で誰の弾に当たったかなど判るはずもないのに、僕の目には敵兵の体に自分の指先を突き立てている自分の姿がはっきり写っていた。そう、僕は人殺しだ。
やがて日付も時間も忘れ去った頃、やっと戦争が終わり僕は家路についた。
妻の顔を目にした瞬間、僕は大声をあげて泣き崩れた。そして僕を優しく抱きしめてくれる彼女の向こうには、マリアと名付けられた僕達の娘の姿があった。
それからの僕は抜け殻のようだ。殺戮の記憶から逃れることが出来ず、ただ部屋の隅に蹲り、あるいは家の近くをブラブラと歩き回る、それだけの毎日。
そんな僕に、マリアは近寄ろうともしてこない。
無理もない。こんな陰気で訳の分からない男に急に家族だなどと言われても、到底受け入れられるものじゃない。彼女は妻の後ろに隠れ、怯えた目を向けてくるだけだ。そして僕も、彼女を穢してしまう気がして話しかけることも出来ずにいた。
それから一か月が経った。
散歩から戻ると、何やら家の中が華やかな感じだ。
「お帰りなさい、あなた。さあ早く席について」
「何だい? 一体どうしたんだ?」
壁や暖炉に花が飾られ、テーブルの上にはいつになく豪勢な料理。妻は僕を座らせながらクスクスと笑った。
「やっぱり忘れていたのね。今日は貴方の誕生日でしょ?」
そうか、誕生日か。
妻は僕の正面に座ると、お祝いの歌を歌ってくれた。その隣で、ぬいぐるみを抱いたマリアが俯いたままモゴモゴと口を動かしている。声は届かないが、その仕草だけで僕の胸には喜びが溢れた。マリアが、僕の為に…。
「さあマリア、パパにプレゼントよ」
妻が声をかけると、マリアはぴょこんと椅子から降り、僕の所へ寄ってきた。そして顔を上げ、おずおずとぬいぐるみを差し出してくる。僕もぎこちなく手を伸ばして、それを受け取った。
「あ…ありがとう」
マリアはぬいぐるみを渡した後も、手を伸ばしたまま僕をじっと睨んでいた。
僕もその目を見つめ返したまま、どうしていいか分からず固まっていた。そして次の瞬間。
マリアの両腕が大きく開かれた。
「え?」戸惑う僕の背中に、妻の声が飛んできた。
「何をしているの、抱っこでしょ?!」
あっ! 僕は慌ててマリアを抱き上げた。マリアはそれに答えるように僕の首に手を回し、頬を押し付けてきた。「パパ…」
その体は羽のように軽く、そして暖かった。初めて触れた、これが僕の娘……。
「気付いていた? 貴方が帰ってきてから、この子はずっと貴方のことばかり見ていたのよ。パパに抱っこして欲しいって。でも恥ずかしいって。だから今日は勇気を出してお願いするんだって、朝から張り切っていたのよ」
恥ずかしいだって? 怯えて睨んでいたんじゃなかったのか。そうか、女の子だもんな。 そうか……、そうか……。
僕はその小さな体を抱きしめながら、声を押し殺して泣いた。
パパに抱っこして欲しい。僕が過去に囚われたまま蹲まっていたのと同じ時、この子の目はそんな未来を見ていたのか。
君は知らないだろう。君を抱くこの手が、拭うことの出来ない血に塗れていることを。そして今君の腕に抱かれているこの顔が、どれ程の涙に塗れているかを。
知らなくていいさ。僕も忘れる、君の前で泣くのはこれが最後だ。
そして誓おう。これからは笑顔しか見せない、そして君の笑顔だけを見て生きて行くと。
今日は誕生日。今この時こそが、僕の新しい人生の始まりだ。 私は3回目です。長い人は本当に凄いと思う。
それだけ小説が好きってことだ。
あぁ、小説ってさ、なんかいいよね。
ちょっと疲れるときもあるけどさ。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
>>655
>>661
>>672
>>685(参加作品と書かれていないが内容で判断した!)
只今、十二作品!(`・ω・´) あれっ?ごめんなさい!
エラー修正した時にしくじったみたいです 六畳一間に響き渡る私の獣のようなうめき声がようやく止んだ、かと思えば今度は赤ちゃんが激しく泣き叫ぶ声。
物の少ない部屋は必要以上に音を反響させてしまう。壁の薄い部屋だから隣近所に響かないか心配だ。
仰向けに寝ころんだ私は乱れる呼吸を整えようと胸を大きく上下して息をした。
口を大きく開けたので痛みをこらえるために咥えたハンカチが口から零れ、冷たい空気が心地よく体に流れ込んで来た。
ラマーズ法なる呼吸をすればもっと楽だったのではないか、そんな事を今更ながら思い出す。
後先をよく考えずに行動してしまうのは私の悪い癖である。
現状にしたってそうだ。高校進学ほどなくして一つ上の先輩と付き合い、流れに任せて交わった。
そして妊娠して彼に捨てられ、親にばれて大ゲンカの末に勘当されて、逃げる様に家を飛び出し、
格安オンボロアパート見つけて転がり込んだ。それが今から数か月前。それからは徐々に大きくなるおなかが
好奇の目にさらされるのが嫌で人目を忍んで生活し、終いには自宅で出産に至った。我ながら呆れた人生だ。
私は大きく開いた股の間に目をやった。埃っぽい畳にタオルが敷かれただけの簡素なベッド、そこに赤ちゃんが
血やら何やらにまみれていた。手が血に濡れる事も厭わず私は背中に手を回して抱き上げた。
こんな時普通の女性なら何と言うのであろう。「生まれてきてくれてありがとう」などと言うのだろうか。
しかし私の口からそんな言葉は出てこない。貯金も尽き果てているというのに食いぶちが増え、
それでなくても家賃を滞納していて追い出されそうなこの現状、感謝する余裕なんて微塵もない。思わず涙が流れてきた。
玄関のドアがドンドンと音を立てて叩かれた。大家さんが家賃を回収しに来たのだろうか、暗澹たる運命が
さっそく私の元へやって来た。疲労困憊の私は声を上げるのも億劫で、赤ちゃんを抱いたまま横になって目をつむった。
このまま眠るように死ねたらいいのに、私はそんな事を考えた。
が、それと同時に考えた。私が死んだらこの子は一体どうなるのだろう。ほどなくおなかをすかせて死んでしまうか、
それともこの劣悪な環境に体を壊して死んでしまうか。いずれにしても生まれた途端に私のせいでそんな事になっては
あまりに不憫ではなかろうか。この子だけでも、幸せに生きることは出来まいか。
私は体に鞭打って立ち上がり、ドアに向かって歩いて行った。この先にどんな未来が待ち受けているかは分からない。
しかしどうせ死ぬならこの子の為に、私らしく後先考えないであがいてみよう。そんな思いで私はノブに手をかけ、ドアを開けた。
「……ぁさん! ねえ、母さんっ!」
呼ばれている事に気が付いて私は我に返った。目の前で呼んでいたのは娘だった。
純白のウエディングドレスに身を包み、白い花束を抱いていて嗚咽している。
「どうかしたの、母さん?」
「いいえ何でも無いわ。それよりあなた、涙でひどい顔してるわよ? せっかくの花嫁が台無しじゃない」
「だってアタシ、嬉しくって……。それに母さんだって、人の事言えないじゃない」
言われて頬に手を当てると確かに涙に濡れていた。式中は毅然と振舞おうと思っていたのにいつの間に泣いたのだろうか。
私はなおも流れる涙を手でぬぐった。
私はあの後、生まれて間もないの娘と共に実家に帰った。両親に何度も頭を下げて許してもらい、
それからは学業、育児、就職、教育、娘の為にとにかく何でもがむしゃらにやった。私によく似てじゃじゃ馬に育った娘に
苦労させられはしたが、無事にこの良き日を迎えることが出来たのだ。今となっては全て楽しい思い出だ。
娘が私に抱きついてきた。
「母さん、アタシ、幸せでした。アタシを産んでくれて、本当に、本当にありがとう」
彼女は声を震わせてそう言ってくれた。でもそれは違う、あの時救われたのは私の方だ、だから感謝すべきはむしろ私の方なのだ。
生まれた時の事なんてきっと知らないだろうから、いつかきっとあの時の話をして改めてお礼をしようと私は思う。
でもひとまずは、この一言だけは言わせてもらう。
「結婚おめでとう、ツタ子。そして、生まれてきてくれてありがとう」
私は涙に濡れた手を背中に回し、娘をそっと抱き寄せた。 >>668
私は今回が初めての参加で、このスレッドを知ったのも二週間ぐらい前です。
しばらく読み専門で他の人の作品とワイさんの指南を見て書き方の勉強をしていました。
510から初めて作品投稿をさせてもらいようやく起承転結も掴みかけた段階で的確なご指南に感激です。
みなさん長くいる方々なんですね。道理で制限内でも文章力が高い。
私はミステリーやサスペンスを全く見ないので不慣れなお題に苦戦しました。
どうにかトマト祭で場を和ませ無理やりサスペンス?に繋げたのが無理やりすぎたでしょうか。
なんか空気が違う感が半端無いです。
サスペンス、ミステリー、ホラー、スプラッタ、どれも見ないので違いが調べても分からないのですが、
どういう違いがあるのでしょうか。
サスペンス(殺人事件を刑事が解決/よく夜に主婦が観てる印象)ミステリー(歴史的事件の探究/ピラミッドの謎とか)
ホラー(幽霊物/貞子とか怖い系)スプラッタ(狂った人が出てくる/13日の金曜日?)で合っていますか? 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>651
>>649
>>655
>>661
>>672
>>685
>>690
只今、十三作品!(`・ω・´) >>692
そんな感じ!
その実、作者の主張でジャンルは決まる!
読者が「えー、これってスプラッタだよねぇ」と云ったとしても、
作者が「これはスプラッタホラーだからジャンルはホラーなんだ!」と言い張ればホラーになる!
その程度の物と認識していればよい!(`・ω・´) さて、寝るか! 雪は荒れ狂う海面をこするようにして、聳え立つ崖に激しく吹きつけていた。時折断崖の上に斜めにせり出していた積雪が、
凄まじい轟音と共に一気になだれ落ちる。その度にこの島全体が揺れるような錯覚を覚えた。
「ご安心下さい。貴女様の周囲の温度は20度、湿度は50%に保っております」山道の先を歩きながら神主の男は言った。確かに私の半径5mの半球状空間に雪は侵入していなかった。
融けもせず消滅する。組織を抜けてから色々な異能力者と関わってきたが、かなり珍しいタイプだ。
「素敵な能力ですね」「ただの傘代わりですよ。でもまあ、2万年の伝統を誇るお家芸ですね」神主は淡々と答えた。
山道は鳥居に差し掛かった。その先に神社がある。佇まいに日光東照宮を思い出す。
「立派な神社ですね」「建て変えの度に豪華になりまして。先祖がミーハーですと困ります」
私たちは神殿に至った。ご神体は仏像に近い。高さは2m。広げた腕が左右3本ずつの合計6本。こちらに背を向けて、錐体に心臓部を貫かれた上体を前に傾け、
脚を一歩、大きく前に踏み出している。一糸纏わぬその筋骨は隆々としている。肌は夏に繁る葉を陽で透かしたような緑。
私はその前に回りこむ。像に鼻と口はなく、代わりに大きく開く瞳が左右縦に3個ずつ並んでいた。
「準備ができたら言ってください。封印はいつでも解けます」「私も大丈夫です。いつでも戦えるように設計されてますから。この体」答えつつ、私は半身の構えを取った。
『彼氏が最近冷たい。私は変わらず恋をしているのに。誰かこの恋の行方、占ってくれないかな』何気なくツイッターで呟いたのが2日前。
宇宙言語をアルファベットで書いたから誰の返事も期待をしていなかった。そもそも解読のしようが無い。
が、返事が来た。日本海の孤島の神社で神主をやっているという男からだった。『お手伝い頂きたい難事があります。成功の暁には、占ってさし上げます』
興味が湧き、詳細を伺う。
……神主の一族は島で男女の御神体を祀ってきた。男は島の南の社、女は北だ。祀り続けた期間はおよそ2万年。男女は半時間停止状態の異星人。反物質刑を受けている。
反物質刑とは宇宙刑罰の一種だ。主に夫婦に対して行われるらしい。体細胞を構成する原子を置換し、お互いが接近すると対消滅をするように変える。
この時原爆200万個分のエネルギーが発生し、本州が吹き飛ぶらしい。神主の一族はその制御のために改造、設置された現地人だそうだ。
宇宙と地球のメンタリティ的な壁にもやもやした物を感じる。
半時間停止の前に男女は致命傷を受けている。ただし封印が解けるとどうなるか分からない。何せこの状態でも、男神は2万年で300mほど女神方向に進んでいる。
恐るべき意志である。しかも神主の一族も血が薄れ、制御の力が弱まっている。だから神々の処分、つまり戦闘を手伝って欲しいという。私は恋に悩む乙女心のために了承した。
戦いは1分に満たなかった。だが濃密な時間だった。女神方向に駆けようとする彼を留める為に、かなり高度な打撃戦を展開。この末これを封殺し、男神は塵のように崩壊した。
神主が錐体を抜いた胸から彼が紫の血を大量に出していなければ危なかった。が、勝利は勝利である。
続いて北の社に向かい女神を眼にする。美しいエメラルドと、6つの大きな瞳。
小柄だがしなやかな体つき。喉に錐体が突き刺さっている。
3組の手を組み合わせ、膝まづいている。神主が彼女から錐体を引き抜き時を解放。女神は錐体の刺さった喉笛付近から、大量の紫の血を迸らせ、天を仰いだ。
肩付近の両手を天井に向けて振り回す。血に濡れた胸付近の腕を背に回す。一番下の両腕で空を抱く。
それは奇妙な動きというより舞踊だった。この種類の宇宙人の精神構造は分からない。が、確信した事が1つある。彼女の踊りは、彼への愛の叫びだった。
しかしすぐにその舞いの力も失われ、彼女は男神と同じように崩壊した。
「終りましたね」「はい」「伝承によると、2人は……」「?」
「知らされていなかったそうです。反物質処置を受ける前の、お互いの状態を。ただ分かたれて錐体に貫かれ、とても長い時を」「停止させられた」「はい、そういう刑罰ですから」
神主の声には感傷の響きがあった。まあ、そうだろう。2万年はとても長い時間だ。
彼は改めて、こちらに向き直った。では、お約束のとおり、貴女の恋を占いましょう」
この時、私の中に少しだけ戸惑いが生まれた。気おされたのだ。それは神々が想い合ってきた永い、とても永い時間に。 雪は荒れ狂う海面をこするようにして、聳え立つ崖に激しく吹きつけていた。時折断崖の上に斜めにせり出していた積雪が、
凄まじい轟音と共に一気になだれ落ちる。その度にこの島全体が揺れるような錯覚を覚えた。
「ご安心下さい。貴女様の周囲の温度は20度、湿度は50%に保っております」山道の先を歩きながら神主の男は言った。確かに私の半径5mの半球状空間に雪は侵入していなかった。
融けもせず消滅する。組織を抜けてから色々な異能力者と関わってきたが、かなり珍しいタイプだ。
「素敵な能力ですね」「ただの傘代わりですよ。でもまあ、2万年の伝統を誇るお家芸ですね」神主は淡々と答えた。
山道は鳥居に差し掛かった。その先に神社がある。佇まいに日光東照宮を思い出す。
「立派な神社ですね」「建て変えの度に豪華になりまして。先祖がミーハーですと困ります」
私たちは神殿に至った。ご神体は仏像に近い。高さは2m。広げた腕が左右3本ずつの合計6本。こちらに背を向けて、錐体に心臓部を貫かれた上体を前に傾け、
脚を一歩、大きく前に踏み出している。一糸纏わぬその筋骨は隆々としている。肌は夏に繁る葉を陽で透かしたような緑。
私はその前に回りこむ。像に鼻と口はなく、代わりに大きく開く瞳が左右縦に3個ずつ並んでいた。
「準備ができたら言ってください。封印はいつでも解けます」「私も大丈夫です。いつでも戦えるように設計されてますから。この体」答えつつ、私は半身の構えを取った。
『彼氏が最近冷たい。私は変わらず恋をしているのに。誰かこの恋の行方、占ってくれないかな』何気なくツイッターで呟いたのが2日前。
宇宙言語をアルファベットで書いたから誰の返事も期待をしていなかった。そもそも解読のしようが無い。
が、返事が来た。日本海の孤島の神社で神主をやっているという男からだった。『お手伝い頂きたい難事があります。成功の暁には、占ってさし上げます』
興味が湧き、詳細を伺う。
……神主の一族は島で男女の御神体を祀ってきた。男は島の南の社、女は北だ。祀り続けた期間はおよそ2万年。男女は半時間停止状態の異星人。反物質刑を受けている。
反物質刑とは宇宙刑罰の一種だ。主に夫婦に対して行われるらしい。体細胞を構成する原子を置換し、お互いが接近すると対消滅をするように変える。
この時原爆200万個分のエネルギーが発生し、本州が吹き飛ぶらしい。神主の一族はその制御のために改造、設置された現地人だそうだ。
宇宙と地球のメンタリティ的な壁にもやもやした物を感じる。
半時間停止の前に男女は致命傷を受けている。ただし封印が解けるとどうなるか分からない。何せこの状態でも、男神は2万年で300mほど女神方向に進んでいる。
恐るべき意志である。しかも神主の一族も血が薄れ、制御の力が弱まっている。だから神々の処分、つまり戦闘を手伝って欲しいという。私は恋に悩む乙女心のために了承した。
戦いは1分に満たなかった。だが濃密な時間だった。女神方向に駆けようとする彼を留める為に、かなり高度な打撃戦を展開。この末これを封殺し、男神は塵のように崩壊した。
神主が錐体を抜いた胸から彼が紫の血を大量に出していなければ危なかった。が、勝利は勝利である。
続いて北の社に向かい女神を眼にする。美しいエメラルドと、6つの大きな瞳。
小柄だがしなやかな体つき。喉に錐体が突き刺さっている。
3組の手を組み合わせ、膝まづいている。神主が彼女から錐体を引き抜き時を解放。女神は錐体の刺さった喉笛付近から、大量の紫の血を迸らせ、天を仰いだ。
肩付近の両手を天井に向けて振り回す。血に濡れた胸付近の腕を背に回す。一番下の両腕で空を抱く。
それは奇妙な動きというより舞踊だった。この種類の宇宙人の精神構造は分からない。が、確信した事が1つある。彼女の踊りは、彼への愛の叫びだった。
しかしすぐにその舞いの力も失われ、彼女は男神と同じように崩壊した。
「終りましたね」「はい」「伝承によると、2人は……」「?」
「知らされていなかったそうです。反物質処置を受ける前の、お互いの状態を。ただ分かたれて錐体に貫かれ、とても長い時を」「停止させられた」「はい、そういう刑罰ですから」
神主の声には感傷の響きがあった。まあ、そうだろう。2万年はとても長い時間だ。
彼は改めて、こちらに向き直った。
「では、お約束のとおり、貴女の恋を占いましょう」
この時、私の中に少しだけ戸惑いが生まれた。気おされたのだ。それは神々が想い合ってきた永い、とても永い時間に。 >>697
訂正いたしました。
こちらでお願い致します。 雪は荒れ狂う海面をこするようにして、聳え立つ崖に激しく吹きつけていた。時折断崖の上に斜めにせり出していた積雪が、
凄まじい轟音と共に一気になだれ落ちる。その度にこの島全体が揺れるような錯覚を覚えた。
「ご安心下さい。貴女様の周囲の温度は20度、湿度は50%に保っております」山道の先を歩きながら神主の男は言った。確かに私の半径5mの半球状空間に雪は侵入していなかった。
融けもせず消滅する。組織を抜けてから色々な異能力者と関わってきたが、かなり珍しいタイプだ。
「素敵な能力ですね」「ただの傘代わりですよ。でもまあ、2万年の伝統を誇るお家芸ですね」神主は淡々と答えた。
山道は鳥居に差し掛かった。その先に神社がある。佇まいに日光東照宮を思い出す。
「立派な神社ですね」「建て変えの度に豪華になりまして。先祖がミーハーですと困ります」
私たちは神殿に至った。ご神体は仏像に近い。高さは2m。広げた腕が左右3本ずつの合計6本。こちらに背を向けて、錐体に心臓部を貫かれた上体を前に傾け、
脚を一歩、大きく前に踏み出している。一糸纏わぬその筋骨は隆々としている。肌は夏に繁る葉を陽で透かしたような緑。
私はその前に回りこむ。像に鼻と口はなく、代わりに大きく開く瞳が左右縦に3個ずつ並んでいた。
「準備ができたら言ってください。封印はいつでも解けます」「私も大丈夫です。いつでも戦えるように設計されてますから。この体」答えつつ、私は半身の構えを取った。
『彼氏が最近冷たい。私は変わらず恋をしているのに。誰かこの恋の行方、占ってくれないかな』何気なくツイッターで呟いたのが2日前。
宇宙言語をアルファベットで書いたから誰の返事も期待をしていなかった。そもそも解読のしようが無い。
が、返事が来た。日本海の孤島の神社で神主をやっているという男からだった。『お手伝い頂きたい難事がございます。成功の暁には、占ってさし上げます』
興味が湧き、詳細を伺う。
……神主の一族は島で男女の御神体を祀ってきた。男は島の南の社、女は北だ。祀り続けた期間はおよそ2万年。男女は半時間停止状態の異星人。反物質刑を受けている。
反物質刑とは宇宙刑罰の一種だ。主に夫婦に対して行われるらしい。体細胞を構成する原子を置換し、お互いが接近すると対消滅をするように変える。
この時原爆200万個分のエネルギーが発生し、本州が吹き飛ぶらしい。神主の一族はその制御のために改造、設置された現地人だそうだ。
宇宙と地球のメンタリティ的な壁にもやもやした物を感じる。
半時間停止の前に男女は致命傷を受けている。ただし封印が解けるとどうなるか分からない。何せこの状態でも、男神は2万年で300mほど女神方向に進んでいる。
恐るべき意志である。しかも神主の一族も血が薄れ、制御の力が弱まっている。だから神々の処分、つまり戦闘を手伝って欲しいという。私は恋に悩む乙女心のために了承した。
戦いは1分に満たなかった。だが濃密な時間だった。女神方向に駆けようとする彼を留める為に、かなり高度な打撃戦を展開。この末これを封殺し、男神は塵のように崩壊した。
神主が錐体を抜いた胸から彼が紫の血を大量に出していなければ危なかった。が、勝利は勝利である。
続いて北の社に向かい女神を眼にする。美しいエメラルドと、6つの大きな瞳。
小柄だがしなやかな体つき。喉に錐体が突き刺さっている。
3組の手を組み合わせ、膝まづいている。神主が彼女から錐体を引き抜き時を解放。女神は錐体の刺さった喉笛付近から、大量の紫の血を迸らせ、天を仰いだ。
肩付近の両手を天井に向けて振り回す。血に濡れた胸付近の腕を背に回す。一番下の両腕で空を抱く。
それは奇妙な動きというより舞踊だった。この種類の宇宙人の精神構造は分からない。が、確信した事が1つある。彼女の踊りは、彼への愛の叫びだった。
しかしすぐにその舞いの力も失われ、彼女は男神と同じように崩壊した。
「終りましたね」「はい」「伝承によると、2人は……」「?」
「知らされていなかったそうです。反物質処置を受ける前の、お互いの状態を。ただ分かたれて錐体に貫かれ、とても長い時を」「停止させられた」「はい、そういう刑罰ですから」
神主の声には感傷の響きがあった。まあ、そうだろう。2万年はとても長い時間だ。
彼は改めて、こちらに向き直った。
「では、お約束のとおり、貴女の恋を占いましょう」
この時、私の中に少しだけ戸惑いが生まれた。気おされたのだ。それは神々が想い合ってきた永い、とても永い時間に。 >>699
たびたび申し訳ありません。
こちらでお願いいたします。 3歳の頃から私は間違えてきた。
母の目を盗み3歳の私はよく冷蔵庫から練乳のチューブを取り出し、しゃぶった。
のみならず私は赤ちゃんの人形を胸に抱いてはチューブをあてがってミルクを与える真似事をした。
人形の顔は見る間に練乳まみれになった。これを見咎めた母にぶたれながら、私は目の端に妹を探したりした。
この頃の妹は0歳で赤ちゃんベッドの柵の向こうにいた。
乳量が貧しかった母は、哺乳瓶で妹に栄養を与えていた。この時の母の額、頬、口元には女神的な輝きがあった。
頬をぶつ母と全然懲りない私の関係は世の中の出来事に関係なく続いた。
童謡を口ずさむ妹の歌声に母がうっとりとしていたとか、母の打撃部位が頬からお尻、お尻からお腹に変わったとかいう物事と、
世の中の変化は私の中では等しく重要な事だった。
が、その意味が分からない私は何歳になっても赤ちゃんの人形を抱きしめていた。それは母が妹を抱きしめるように。
しかしそんな私に母は不満を覚え人形を奪い妹に与えた。妹はとても喜んだが私は悲しかった。妹は既に3個も人形を母や祖父たちから授けられていた。
とても寂しくなり練乳と交換に返してもらおうとした。母が転寝をしている隙に私は当該缶を探し出し、上手に開いた。
妹の首根を押さえ口に押し付ける。
目を覚ました母は気が違ったように叫んだ。半分開いた缶のふちが妹の頬を傷つけて、そこからしみでた赤がミルクの乳白色に混ざっていたからである。
気がつけば病院の白い天井を見上げていた。
しばらくの病院暮らしの後退院すると何故か祖父母宅に引き取られた。私は赤ちゃんの人形を探し次に妹を探した。
が、見つからず、何か本質的に大切な事が喪われた気がして慟哭した。
そんな私に祖父は読書を進めてくれた。祖父は人形は豊かさだと言った。文字もそうだ。
『人を豊かにする。そして豊かな人は、他の人を豊かにできる。だからたくさん学びなさい』
彼の言葉に方針は決まり、私は活字の世界に飛び込み、熱中した。
中学に上がった月に祖母が脳卒中で他界した。これを機に祖父は認知症を患う。
私は中学卒業と共に大学検定を受け合格通知が届いた月に祖父が倒れた。彼はそのまま亡くなる時に私の手を取って祖母の名をずっと呼んでいた。
私は再び母と妹、そして父と暮らすようになった。妹は可愛らしい女の子に成長していた。母は昔より小さくなっていて、父は相変わらずあまり見かけなかった。
ただ、何かが欠けていた気がする。朗らかな妹から不可視の防衛線を感じていた。
が、季節は移り行く。私は国立大学を受験し、合格。自動車免許も取得した。だがこれが間違いだったのである。
夏の日だった。妹が書店で連れの年上の男と共に万引きしているのを見咎めた。
色々なすったもんだを経て、私は学生街のT字路沿いにあるその男のアパートを突き止め、妹と別れてくれるように頼むべく出向いた先で酷く怒らせてしまった。押し倒され、陵辱を受けた。
その晩の事である。この宇宙的な惨事に夜中まで歯がみをした後、私は父親のワゴン車を勝手に運転して、アパートの前で憤怒と共に待った。
男がでてきた。
私はワゴン車のフロントと電柱で男を見事に潰した。対象が喀血しても私はアクセルペダルを踏み続けた。
しばらくしてから車外にでて復讐を確認する。立ったまま絶命しているその脈を確認する私の手に、男の唇から血と泡が混ざった物が垂れて気持ち悪く伝った。
私はその足で出頭し拘置所に入った。
ある日悪阻が襲った。赤ちゃんが出来たのだ。私は驚愕した。
色々な方からおろす事を進められたがとても産みたくなった。妹をあやす母の姿が脳裏から離れなかったのを覚えている。
命に罪はない。父が強姦魔でも、母が殺人者でも。私は家族の反対を振り切って、産むことにした。驚くべき事に、臨月には拘置が一時解けて、警察の指定病院に入院させてもらえたりした。
壮絶な痛みの末に抱いたわが娘から私は引き離され拘置所に戻された。そうこうしているうちに判決は下った。情状酌量分を差し引いて10年。
もうすぐ刑に服してから9年になる。娘は児童福祉施設に入所しているらしい。
この9年間、私は夢の中で何度も娘に会った。膝にのせ、抱き上げ、高い高いをした。背に手を回し、抱きしめる。
しかし、そうしてからいつも気がつくのだ。私の手は血に濡れている。これはあの時に、娘の父が流した血だ。私は酷く悲しくなる。
気が狂いそうになる。ただ1つ幸いなことは、私が夢で、狂おしいほどに力を込める、私の手を、現実の娘は知らないことだ。
それが間違いだらけの私に与えられた、せめてもの恵みであり、そして……償いなのかもしれない。 徹夜して書いておいてなんですが、妊娠ネタで被っている
>>690
の方が作品として好きです。 冷ややかな沈黙があった。灯りの落ちた部屋へ近くにあるコンビニの光が差し込んでいる。
立ちすくんだ彼女はフード付きのパーカーを着ていて、袖は黒っぽい液体で濡れている。血だろう。息絶えた男は部屋の隅で力なく首を前に垂れている。
「ユウ、あんた何しちゃった」
私の声でユウは跳ね返るようにこちらを振り向き、手を後ろに隠した。
「いやいや。見えてるから、包丁」
ゴトンとそれを取り落す音がしてから、彼女はしゃがみ込んだ。「メーちゃんどうしよう。わたし、やっちゃったよ……」
女二人のルームシェア生活というものは、いずれだらしのないほうが男を連れ込むようになるものだ。
すぐそこで死んでいる男は、いつもアルマーニの眼鏡をかけて爪を綺麗に手入れしていた。ユウが素っ頓狂なことを言えば蹴りを入れ、えへらえへらと笑えば拳を振り上げ、指にはどこぞの女との結婚指輪を嵌めていた。
殴るときは怒りをみなぎらせた奇声をあげる。そういう男にユウは依存していた。
彼女は記憶を手繰ってことの顛末を話しはじめる。
昼間から部屋で酒盛りをしていたユウ達は、ビールやワインのミニボトルを何本も開けて泥酔状態になった。
「オレンジを放置すると渋くなってミカンになるんだって」ユウは真剣に言った。酔った男は大笑いしたあと彼女の髪を掴んだ。どうしようもない馬鹿女だ、と言いながら。
深酔いと暴力で記憶のない彼女が目覚めたとき既に日は落ちており、血まみれの手はいつの間にか包丁を握り、男は座り込んで死んでいた。カフェで時間をつぶした私がそこに帰ってきた。
「わたしも死ぬ……」
窓に近寄っていくユウの腰を床へ引きずり倒す。
「ふざけんな」この世には、死んだほうがいい奴とそうじゃない奴がいる。
死にたい、とユウは呟く。馬乗りになって頬をはたいて黙らせると、パーカーの裾で顔を覆って泣き始めた。うで、血まみれだぞ。
「メーちゃん、死なせてよお」
「させると思う」刃物を探す手を押さえつけた私がにこりとしながら凄めば、ユウはたやすく怯む。
「うぐうっ、だってもう生きててもしょうがないもん」
「しょうがなくない」
「だって」
私の口から言葉があふれてくる。「ああイライラする。ユウには本当イライラする。馬鹿でアホで雑魚でグズで、すぐダメ男に引っかかる。でも知ってる? 私はね、そんなあんただからこそ、大事なの」
私の頬から涙が伝って、ユウの顔に落ちた。
「だから生きて貰う」
「……ひぐっ」
「ユウ。償いな。そしたら戻ってきて」「メーちゃん、メーちゃん……うわあああ」
彼女は起き上がって私に抱きついてくる。こんな奴でも生かすためなら涙だって流す。
そう、償ってもらわなければならないのだ。
男が私との関係は終わりだと言ったとき、ユウと付き合いはじめたのは何故かと食い下がったら、扱いやすいからだと答えた。
「うぐっ、うぐ、わかった。わたし償うよ、罪を償う」
抗ヒスタミン剤の含まれた風邪薬を酒に混ぜ込んで服用すると、強烈な酩酊が引き起こされる。
「わたしが、わたしがムショから出てくるまで待っててねえ、メーちゃん待っててねえ」
私が教えてやった簡易ドラッグは混ぜ物入りの特製ボトルで、男はそれを気に入った。
副作用が起こす強い眠気で二人は熟睡した。あいつに包丁を突き立てて、ユウには凶器の柄を握らせる。頃合いをみて話に脈絡をつけてやればほら、被害者と加害者の出来上がり。
この世には、死んだほうがいい奴とそうじゃない奴がいる。ユウ、扱いやすいほうで得したじゃない。
ユウが顔を押しつけてくる。その髪に頬ずりをしながら背をさする。覚悟を固めさせてやらねば。
こいつの仕事は、これから警察へしっかり自供することなのだから。私の代わりとして。
「でもメーちゃん、どうしてあのこと知ってたの」「ん」
「確かにわたしは最初包丁をもってた。でも動かないアイツを見てね。どうせ死んでるなら仕返しで沢山殴ってみたいな、と思って酒瓶に持ち替えたんだよ。
そしたらメーちゃんが帰って来て、暗いからわたしの持ったワインの小瓶を見間違えて包丁だって言ったよね。でも今考えるとメーちゃんが包丁のこと知ってるのおかしいと思う」
ユウの背中に回した私の指は彼女の手を押さえたとき血で汚れた。それがいま、鉤爪のようにぎりりと曲がっていった。 >>702
同じく徹夜
ただしこちらはお仕事中なのです
あー、家に帰りたい 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>694
>>699
>>701
>>703
只今、十六作品!(`・ω・´) 今月の二十日まで!
翌日には寸評と結果が発表される!
今年最後のワイスレ杯、頂点に立つのは挑戦した君かもしれない!m9っ・ω・´)ビシッ! 第四十四回ワイスレ杯のルール!
名無しの書き込みを必須とする!(名乗った場合は通常の評価に移行する!)
設定を活かした内容で一レスに収める!(目安は二千文字程度、六十行以内!) 一人による複数投稿も可!
通常の評価と区別する為に名前欄、もしくは本文に『第四十四回ワイスレ杯参加作品』と明記する!
ワイが参加作品と書き込む前に作者が作品を修正する行為は認める!
今回の設定!
ワイの決めたタイトルに見合う一レスで完結した物語を募集する!
多くは語らない! 柔軟な発想と作品に仕上げる手腕に期待する!
タイトル「背中に回した血塗れの手をあなたは知らない」
応募期間!
今から始まって二十日まで! 上位の発表は投稿数に合わせて考える! 通常は全体の三割前後!
翌二十一日の夕方に全作の寸評をスレッドにて公開! 同日の午後八時頃に順位の発表を行う!
ここにちゃんと書いてある!(`・ω・´) 「神よ。いま御許に参ります……!」
老いた体をベッドに横たえて、私は一人そう呟いた。
もう目も見えない。船出の時が来たようだ。
全身を侵した病の痛みも、今はボンヤリ遠くの事の様だった。
闇に閉ざされた視界に光が降りそそいで来た。大いなる御手に導きを感じる。
私の体が、フワリとベッドから浮かび上がった。
光の方から降りて来た、あどけない顔をした何人もの天使たち。
彼らに導かれて私が旅立とうとした、だがその時だった。
ぎゅっ!
誰かの手が、私の背中を掴んでいた。
「神父様。わたしを置いて行ってしまいますの?」
「わー! きみはシスター・クリス!」
声の方を振り向いた私は、悲鳴を上げた。
背中から私の僧服を掴んでいたのは、血塗れのか細い女性の手だった。
私を呼び止めたのは、尼僧姿で寂しそうな顔をした一人の女。
若い頃、私と道ならぬ恋に落ちたシスター・クリスだ。
私との関係に悩み抜いたあげく、カミソリで手首を切って自身の命を絶ってしまった女性だった。
「お願い神父様。わたしと一緒に居て……」
シスターの青い瞳が、悲し気に私を見つめる。
私は残りの一生を捧げてシスターの救済を神に祈ってきたのに。
天国にも行けず、いまだに辺獄を彷徨っているのだろうか?
「どうするの? 行くの? 行かないの?」
私の周りをパタパタ飛びかいながら、けげんそうな顔の天使たち。
「うぅうぅうぅ……」
私は声を詰まらせる。ここまで来て神の手の導きを拒むことができるだろうか? だが……
「悪かったシスター!」
がばっ!
天使たちをフリ切って、私はシスターの魂を思い切り抱きしめた。
「きみだけを苦しめて殺してしまった。私の手もまた血塗られていたというのに! きみ一人救えないで何が神父だ!」
「神父様。うれしい!」
シスターもまた、血塗れの手を私の背中に回す。
「あーあ。もう見てらんない。好きにすれば?」「ときどき様子を見に来るからね? 気が変わったら言ってね?」
天使たちが呆れ声で、私とシスターの元から飛び去って行く。だが後悔などあるものか。
「さあクリス。共に行こう地獄へ。きみとだったら何処へだって……」
「あら、大げさね神父様?」
クリスが私の背から手を放して、ニッコリと微笑んだ。血塗れだったはずのその手が、いまは清浄そのものだ。
「ん。その手は!?」
「ま、わたしも演出過多でしたけどね。あなたの気を引くための『演出』が……」
シスターが私を見上げて、悪戯っぽくペロリと舌を出した。
#
それからの私たちは、天国にも地獄にも行かなかった。
生者の主がいなくなった教会に住み込んで、この世を彷徨う魂たちの愚痴を聞いたり、住む家の世話をしたり。
このごろは道端で凍えそうになっている浮浪者に、犬たちの体を借りて暖かい甘酒缶を配って回ったりしている。
まだ生まれたばかりで命を落とした子供たちの、迷子の魂を探して天使たちに届ける仕事も始めた。
いわば幽霊の「ボランティア」みたいなものだ。
生前よりは不自由だが、お金や形式や格好を気にしなくていいので、けっこう性に合っているかもしれない。
「なるほど、こういう理由だったのか。きみがココに残っていたのは……」
礼拝堂の木椅子に並んで腰かけて、私はクリスの魂を見つめる。
「ええ神父様。あなたならきっと気に入ると思ったの。天国でノンビリしてるより、よっぽどあなたらしい仕事でしょ?」
私の方を向いて、クリスはそう答える。
「…………!」
私は一瞬、声を詰まらせた。
ニッコリ微笑んだ彼女の頭の上で、ボンヤリ輝く金色の輪っかが見えた気がしたのだ。 「神よ。いま御許に参ります……!」
老いた体をベッドに横たえて、私は一人そう呟いた。
もう目も見えない。船出の時が来たようだ。
全身を侵した病の痛みも、今はボンヤリ遠くの事の様だった。
闇に閉ざされた視界に光が降りそそいで来た。大いなる御手に導きを感じる。
私の体が、フワリとベッドから浮かび上がった。
光の方から降りて来た、あどけない顔をした何人もの天使たち。
彼らに導かれて私が旅立とうとした、だがその時だった。
ぎゅっ!
誰かの手が、私の背中を掴んでいた。
「神父様。わたしを置いて行ってしまいますの?」
「わー! きみはシスター・クリス!」
声の方を振り向いた私は、悲鳴を上げた。
背中から私の僧服を掴んでいたのは、血塗れのか細い女性の手だった。
私を呼び止めたのは、尼僧姿で寂しそうな顔をした一人の女。
若い頃、私と道ならぬ恋に落ちたシスター・クリスだ。
私との関係に悩み抜いたあげく、カミソリで手首を切って自身の命を絶ってしまった女性だった。
「お願い神父様。わたしと一緒に居て……」
シスターの青い瞳が、悲し気に私を見つめる。
私は残りの一生を捧げてシスターの救済を神に祈ってきたのに。
天国にも行けず、いまだに辺獄を彷徨っているのだろうか?
「どうするの? 行くの? 行かないの?」
私の周りをパタパタ飛びかいながら、けげんそうな顔の天使たち。
「うぅうぅうぅ……」
私は声を詰まらせる。ここまで来て神の手の導きを拒むことができるだろうか? だが……
「悪かったシスター!」
がばっ!
天使たちをフリ切って、私はシスターの魂を思い切り抱きしめた。
「きみだけを苦しめて殺してしまった。私の手もまた血塗られていたというのに! きみ一人救えないで何が神父だ!」
「神父様。うれしい!」
シスターもまた、血塗れの手を私の背中に回す。
「あーあ。もう見てらんない。好きにすれば?」「ときどき様子を見に来るからね? 気が変わったら言ってね?」
天使たちが呆れ声で、私とシスターの元から飛び去って行く。だが後悔などあるものか。
「さあクリス。共に行こう地獄へ。きみとだったら何処へだって……」
「あら、大げさね神父様?」
クリスが私の背から手を放して、ニッコリと微笑んだ。血塗れだったはずの彼女の手が、いまは清浄そのものだ。
「ん。その手は!?」
「ま、わたしも演出過多でしたけどね。あなたの気を引くための『演出』が……」
シスターが私を見上げて、悪戯っぽくペロリと舌を出した。
#
それからの私たちは、天国にも地獄にも行かなかった。
生者の主がいなくなった教会に住み込んで、この世を彷徨う魂たちの愚痴を聞いたり、住む家の世話をしたり。
このごろは道端で凍えそうになっている浮浪者に、犬たちの体を借りて暖かい甘酒缶を配って回ったりしている。
まだ生まれたばかりで命を落とした子供たちの、迷子の魂を探して天使たちに届ける仕事も始めた。
いわば幽霊の「ボランティア」みたいなものだ。
生前よりは不自由だが、お金や形式や格好を気にしなくていいので、けっこう性に合っているかもしれない。
「なるほど、こういう理由だったのか。きみがココに残っていたのは……」
礼拝堂の木椅子に並んで腰かけて、私はクリスの魂を見つめる。
「ええ神父様。あなたならきっと気に入ると思ったの。天国でノンビリしてるより、よっぽどあなたらしい仕事でしょ?」
私の方を向いて、クリスはそう答える。
「…………!」
私は一瞬、声を詰まらせた。
ニッコリ微笑んだ彼女の頭の上で、ボンヤリ輝く金色の輪っかが見えた気がしたのだ。 今回、訂正多すぎない?
一応コンテストなんだから推敲はしっかりしようよ。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>694
>>699
>>701
>>703
>>710
只今、十七作品!(`・ω・´) 出張が多い。川越方面、所沢方面と車で頻繁に行きまする。運転しながら、作品を考えたりするのが、
楽しみです。今の時期は環八はかなり混む。 環八と云う字面で間八を思い出した!
しかも、今日は熱燗で刺身の盛り合わせを食べる予定になっている!
それにしても寒い!(`・ω・´) 子供は子供なりに色々あるんだよ――
と、父とおじさんが話すのを聞いて、悠人は子供なりに思うところがあった。心の中の、密かな反抗。
悠人は五歳になるが、今まで反抗期らしい態度を見せることはなかった。子供らしくない子供だったと言ってもいい。
子供らしく遊んだりもするが、大人びているというか、我慢した方が得なこともあると分かっている背伸びをした子供。
そんな悠人が何に反感を覚えたのかと言えばおそらく、父のわかった風な態度。分からない癖に分かったふりをする大人。
決まって、子供のことを理解せずに都合よく子供を扱う態度の裏返しで、子供が振り回されることになるのは経験的に分かっている。ただ、どうにもできない。それもまた子供だからだった。
近所には、大きな公園があった。悠人は逃げるように遊びにでた。奥が見通せないほどの森が中にあり、遊ぶには十分な空間。
その中で、自分だけの空間や秘密を探すのが最近のお気に入りの遊び方だった。
世界には知らないものばかりで、発見は尽きない。
この日も、不思議な色をしたキノコを見つけた。それと。
「それ、どうするの?」
キノコと、その先でキノコを持つ悠人に、丸い目が向けられていた。小さな。おそらく悠人と同じくらいの歳の、女の子が目の前にいた。
「ねえ。食べるの? それとも飾るの?」
「え? いや……」
男子と女子の違いについて意識し出した頃合いだった。
ましてや、戸惑う悠人を相手にぐいぐい迫る女子を相手に、上手くあしらうような能力は、まだなかった。
しかしこれがこの日の、一番の発見だった。
「また公園に行くのか?」
出かけ間際に父に呼び止められて、悠人は頷いた。
「なんだか最近、公園に行くことが多いな。一人で大丈夫か?」
「うん」
「そうか。大人になったな」
父の言葉を後ろに、悠人は家を出た。女の子と知り合ってから一週間後のことである。
一人で大丈夫に決まっている。父が何を心配しているのかは、よくわからなかった。
「この花の、根元が甘いんだ」
もぎり取って、手渡す。前に出会った女の子にだ。
「へえ……あ、ホントだ! あまーい!」
名前は、葵というようだった。賑やかな女子だ、と悠人は思う。
「でも、気をつけた方がいい」
「何を?」
「前、蜂が出てきたから」
「蜂さんも、甘いの吸いたかったんだね!」
「……きっと、そうだね」
ふと悠人は、大人になったな、という父の言葉を思い出す。
そういうのではない。とか、そういうのってどんなだ? とか、よくわからないものが頭に浮かんで、困る。
最近、たくさん考えることができるけれど、逆にわからないことが増えていくのが不思議でならなかった。一つ一つ確かめていくのも、楽しくももどかしい。
「私、ここ好きだな」
と葵が言う。ここというのは、大きめの穴を枯れた枝葉が隠すようにして覆っている、悠人の秘密基地のことだった。
「いいとこだろ?」
わからないことはたくさんあるけれど、とにかく今は楽しかった。
この楽しい時間が続くようにも思っていた。
でもそう簡単にはいかない。これも、まだ知らなかったことの一つなのだろう。
「確かに、いいところだな」
その声が何をもたらすのかは、瞬時に悠人はわからなかった。
が、秘密基地に入ってくる、一回りは大きい小学生くらいの男子の姿を見て、なんとなく良くないことが起きそうなことだけはわかった。
それからは、わーっ! と、叫びだしたくなるような時間が続いた。
でも、叫ばない。けど、体中が痛くはなった。
ボクシングというやつをお父さんと見たのが良かったのかな、と悠人は思った。
大事だと思えるものを守りたくて、刃向かって、痛い思いをして、それでもそれでも堪えて堪えて、わずかな隙に思いっきり拳を顔面に叩きつけた。小学生は悪態をついて帰っていった。
それから葵と一緒にわんわん泣いて、戻りを心配した父に抱かれて帰ることになった。
もう秘密基地にも行けないな、と思い悠人はまた涙がこみ上げた。
父には転んだと、それも坂の上から茂みの方へ盛大にと、嘘をついた。葵には傷一つなかったから、父はそれを信じた。
悠人が背中に手を回しても後ろまで届かなくて、広い背中だと思い知った。殴られた傷より殴った手の方が痛い。初めて知ることばかりだった。
多分こうして、楽しいことや辛いことを知って、本当の意味で大人になっていくのだ。
強がって絆創膏も貼らなかった悠人の右拳に、やがて一枚だけやたら可愛い絆創膏が一枚だけ貼られるようにになったこと、それを恥ずかしがって隠していることを、父は知らない。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
>>694
>>699
>>701
>>703
>>710
>>715
只今、十八作品!(`・ω・´) >>710
あ、人がシリアスに優勝狙いに行ってるのに
ほんわかコメディで優勝さらっていく人だ >>695
ホラーがつくと、スプラッタもホラーになるんですか?
というかスプラッタとホラーのダブルマッチなんて恐怖の極みじゃないですか。
それなら、極対極を取るジャンルの組み合わせも作れるということですね。
考えたら既にありますが……
恋愛ホラー(ゴースト〜ニューヨークの奇跡〜)、時代SF(戦国自衛隊)
ホラーコメディ(貞子のパロディ)、ファンタジーすぷら……いや、それは無いですね。
意外な組み合わせで最強のジャンルが出来るとしたらどんなものか興味があります。 >>718
横からですが
要は料理と同じですよ
料理には足し算の料理と引き算の料理があります
組み合わせで味を高めるのが足し算の料理、大半の料理はこれですね
引き算の料理とは、余計な雑味を排除して素材の味を極限まで引き出そうとするものです。刺身や甘栗剥いちゃいましたがこれに当たります
ジャンルの組み合わせは足し算。ホラーや純愛もの、18禁エロなどは引き算ではないでしょうか
何が最強だなんてないと思います。発想と腕次第ですよ
>>718さんもぜひ、生ハムメロン的な作品を書き上げてここに晒して下さい。楽しみに待ってます 足し算の料理 すき焼き
引き算の料理 湯葉の出汁に浮かべたやつ(料理名知らん) ある若い夫婦について書こうと思う。
名前はデラとジム。
偶然にも『賢者の贈り物』に登場する夫婦と同じ名前であるが、深い意味はない。
貧しい二人は、ニューヨークの片隅で、20世紀最初のクリスマスを迎えようとしていた。
★
1ドル87セント。デラが夫ジムへのクリスマスプレゼントのために用意できるのは、これが精一杯です。
それでも、八百屋や肉屋で店主に嫌な顔をされながら、なんとかまけさせたりして、やっとの思いで貯めたお金でした。
三度、デラは数え直しましたが、お金は増えも減りもしません。たったの1ドル87セント。明日はクリスマスだと言うのに。
夫へ贈るプレゼントに、デラには心づもりがありました。それはジムの持っている金時計にぴったりの金の鎖です。
その時計は、ジムの父親がその父親から受け継いだ立派なものです。ところがそれを留めているのが、古い皮の紐なのでした。
一週間前、デラはある時計屋で金の鎖を見つけ、クリスマスの贈り物にこれ以上のものはないと考えていたのです。
問題は、それが20ドルもすることです。
ところでジムが金時計という宝物を持っているように、デラにも宝物がありました。それは、長く美しい髪です。
「もし君の髪が短かったら、僕らは結婚していないかもしれないよ」とジムは戯れに言うことがありました。
そんなふうに、デラの髪はジムにとっても宝物でした。そしてデラは、この髪がお金になることを知っていました。
鎖を見つけて以来、デラは悩みに悩みました。しかし、もはや悩んでいる猶予はありません。
デラはいよいよ決心すると、さっと支度を整え、帽子をかぶって「ヘア用品とカツラ」と看板の出ている店へと向かいました。
「それをとって、見せてみろ」
禿げ上がった店主の言われるままに帽子をとり、デラは髪の縛めを解きました。
まるでシルクのドレスのように艶やかな光を放って、長い髪が柔らかな腰を超えて膝のあたりまで、滝のように流れ落ちます。
夫の前でさえめったに解くことはないのに、見知らぬ男の前で髪を解いてみせるのは、デラにとってひどく屈辱でした。
「あんた、そのきれいな長い髪を切っちまおうってのかい」
「お金が必要なんです。どうしても」
「それならもっとうまい話がある。しばらく俺の言う通りにしてくれたら髪は切らないで40ドル払おう。髪だけなら10ドルだ。
なにも一晩付き合えなんて言ってるわけじゃねえ。ほんのいっとき、からだを預けてくれりゃあいいんだ」
今やスカートのポケットには、綺麗な小箱に収まった金の鎖が入っています。しかしデラはそれに触る気が起きませんでした。
キッチンの小さなテーブルで、デラが後悔とも罪悪感ともつかぬ気持ちで沈んでいるところに、ジムが帰ってきました。
ジムは妻の顔を見て微笑むと、擦り切れたコートのポケットから小さな包みを取り出しました。
それは、ふたりでブロードウェイに出かけた時に、ある店のショーウィンドウで見かけたべっ甲の櫛でした。
その気品のある光沢によって、しばらくのあいだデラの心を魅きつけて離さなかった、あの櫛です。
ジムがデラの髪に恭しく櫛を挿すと、二人は優しく抱き合いました。
そのとき、ジムの背中に回した自分の手が、まるで穢れた血に塗れているようにデラは感じました。
デラはそのことを努めて考えるまいとして、自分の髪を飾っている美しい櫛の、その輝くようなべっ甲の光沢を想いました。
自分の犯した過ちは、この幸福な結婚を永遠たらしめるための些細な出来事に過ぎないのだと、無理矢理に納得するほかありませんでした。
一方、ジムは温かな妻の背中に手を回しながら、昨日の自分の行為は、この妻の喜びと感謝で許されるはずだと考えていました。
それは不運な巡り合わせでした。
人けのない裏通りで声をかけてきた売春婦の、褪せた髪に挿された不相応な櫛は、まさにデラの心を奪ったあのべっ甲の櫛だったのです。
気づいた時には、ジムの足元に売春婦が崩れ落ちていました。ジムはその髪から櫛をもぎ取ると、後も見ずに駆け出しました。
それが昨日の出来事です。
そして今、その櫛が、クリスマスの贈り物として、デラの艶やかな髪を美しく彩るのでした。 「愛してるよ」
キスする時、彼は決まってそう囁く。
「私も、愛してる」
私もいつも通り、彼の首に手を回しながらそう答える。
目を瞑ると、彼が優しく唇を重ねてきた。
微かに漂う煙草の匂い。私はこの匂いが大好きだった。
彼が味わうように唇を揺らす度に、僅かに伸びてきた髭が私の肌を刺激する。私は体を震わせ、大きく息を吸って彼の匂いを堪能した。
そしてゆっくりと差し入れられる彼の舌を迎え入れながら、自分からも舌を差し出し、彼と絡め合った。
『キスはセックスと同じ』。昔、何かの本で読んだ記憶がある。本当にその通りだと思う。
彼の体が重みを増し、私をベッドに誘う。後ろに倒される不安は、逞しい腕が掻き消してくれた。
彼は私をベッドの上に横たえると、首筋に唇を這わせながら、全身を愛撫するようにして服を脱がせた。
ボタンが外れる度に。ホックが弾ける度に。その僅かな刺激にも私の体は敏感に反応し、鞭で打ち据えられるように震えた。
彼の右手が私の胸を包み、その先端を唇が覆う。既に勃起しているそれを舌先で転がすように弄ばれると、その堪えがたい刺激に私は身をのけ反らせた。
気が付くと、いつの間にか彼も全裸になっていた。抱きしめられ、肌と肌が触れ合う快感で、私は喉から声が漏れるのを抑えることができなかった。
瞼を固く閉じ、ハッ、ハッ、と荒い息を吐きながら、私は時の経つのを忘れる。時間も、世界も、全ては彼の腕の中。
何もいらない。何も欲しくない。ただこの時だけがあればいい。
夢中で脚を絡めると、私のお腹に彼の逞しいそれが押し付けられるのを感じた。
欲しい…。止め処なく自分が溢れ出す。私は大きく脚を開き、彼を迎え入れようとした。
そして彼もそれに答えてくれた。
彼が私の中に入ってきた時、私は喜びに全身を打ち震わせながらも、口元からは泣き叫ぶような声を上げていた。
彼がゆっくりと動きながら、唇を求めてくる。ああ…私は今、彼に求められているんだ。幸せ…、幸せ…。
私は彼の頭を掻き抱き、自分から顔を寄せて彼を迎え入れた。
彼が唇を離した後も、私は彼を求めた。
頬に添えられた左手を口元に導き、その指を唇に含む。一本ずつ…、舌を絡め、味わうように…。
うっすらと瞼を開くと、薬指の根元にリングの跡が付いているのが目に入った。
優しいあなた…。私と会う時はいつも外してくれている。
安心して、私はあなたを奥さんから奪おうなんて思っていないから。私にはこの時だけで充分、他に何も欲しくなんかないわ。
今だけでいい。明日もいらない。
彼の動きが激しさを増す。私は大きな声を上げながら、ベッドの端をまさぐった。
そして布団の下に隠したそれを掴み取ると、彼を抱きしめるように両手を掲げ、その背中の上でカッターの刃を伸ばした。
彼の腕が私を抱きしめる。彼の荒い吐息が耳元にかかる。彼が私の中を満たしてくれている…。ああ、愛してる!
愛してる! 愛してる! 愛してる!
私は繰り返し叫びながら、自分の手首に刃を走らせた。 第四十四回ワイスレ杯参加作品
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只今、十九作品!(`・ω・´) 第四十四回ワイスレ杯参加作品
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只今、二十品!(`・ω・´) 「作」が抜けた! 意味はわかるのでいいとするか!(・`ω・´;) 後1作、物凄い馬鹿なスプラッタコメディを書く予定だけど、絶対オカルト部の方が上なんだよなあ。
でも頑張ろうと思う。せっかく今年最後のワイ杯だし。
月曜日には投稿したい。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています