「佐藤くん」
 鈴がなるような声がして、長机に配されたパイプ椅子でぼんやりしていた僕はハッとして顔をあげた。
 桜の花びらが舞い落ちる中、僕と目があったとたんに彼女はそっと頭を下げる。腰まである金色の髪がさらさらと水のように流れて、彼女の耳と頬を覆った。
「アリス、来てくれたんだ」
 そう言うと、アリスは返事の代わりに小首をかしげて青い目を細めてみせる。
 彼女の名前はアリス。みるからに清廉な美少女ではあるが、実は魔法少女なのだ。
 それは彼女の服装を見れば一目でわかる。
 彼女の背の丈ほどある長さの魔法ステッキには、持ち手に王冠がデザインされていて、お洒落なのか赤いリボンが大きく結われている。
 頭のてっぺんには紫色のストライプのリボンと魔力の結晶だというコバルトブルーの宝石。
 開いた花を逆さまにしたような青いドレスは前側が大きく開いていて、インナーに着た赤いスカートに白いペチコートと白いニーソの絶対領域が覗いている。そしてバストの下で色が切り替えられており、彼女の控えめな胸が強く主張されていた。
「佐藤くん?」
 アリスの困ったような声で我に返る。
 いや、決して胸の大きさを確かめていた訳じゃないんだ。そうじゃなくて、その。
「たかし? どちらさま?」
 背後からかけらえた声に、僕はびくっとして振り返る。
「お、おばさん」
「この度はご愁傷様です」
 黒い着物の困惑顔したおばさんに、アリスは空気を読まずにぺこりと頭をさげる。
 おばさんの冷たい目がアリスと僕に注がれて、追い詰められた僕は決意した。
「アリス、ちょっと来て!」
 長机を回って「え、え?」と戸惑うアリスの手をとって、僕は式場の外にでて、人気のないことをたしかめた僕は塀にアリスを押しつけた。
「アリス! 来てくれるのは嬉しいけど。ここ葬式なんだよ。その魔法少女な格好はなくない!?」
「え、こ、これは、学生は学生服でいいと聞きましたので。学校の制服なんですけど……」
「世間から秘密のなんとか魔法学校だろ。おばさんとか絶対知らない学校だから!」 
 しゅんとするアリスに僕はそれ以上言えず、大きく息をついてうなだれた。
 まあ、130歳で大往生した爺さんの葬式だから、皆許してくれる雰囲気だったけどさ。
 うつむいた視線の先にアリスの靴が見える。ドレスと同じく、花をモチーフにしたデザインで、開いた花に足をつっこんだような青い尖ったトゥでああもうどうでもいいや。
 とにもかくにも僕とアリスは不可思議な日常を送っているのである。

すげー疲れた。