キャラ視点と描写のお手本
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 西、と父はいった。海の方角がきたなら、左の方角だ。
 緩やかな音ぼる道へとぼくは足を向ける。海を望みながら坂道を上り、
小さな頂を越える。真夏を前に野放図に生えた深緑と、わずかに赤錆びたレールが
ぼくの両側につづく。
 踏切にさしかかった。一時間か二時間に一本しかない電車だから、ぼくは左右を
見ることもなく大股で渡りきった。
 やがて小海線から分岐するレールが見えてきた。
 分岐したレールは赤くぼろぼろに錆びていた。枕木のあいだから雑草がはびこり、
草地なのか線路なのかわからない有り様だった。
 寂れたレールをぼくはたった独りでたどる。
 歩くうち、ますます雨は激しくなっていく。レールの隙間に生まれる水たまりに
否応なく足を踏み入れ、スニーカーの中まで濡れて、歩くたびにぐずぐずと水音が嗚った。
 額にかぶさる長い前髪から滴がしたたり落ちる。

 手の甲で何度ぬぐっても足りなくて、目にも入り込む。
 衣服はたちまちずぶ濡れになった。もはや下着まで染み通っていた。ぼくは水を
吸ってわずかに重くなったザックを揺すり上げる。
 行けども行けども、まばらな家々の中には。青い屋根の雑貨屋”なんて見えてこない。
 どこまで歩けばいいんだろう。一、卜分って、こんな果てしない時問だっただろうか。
 死体を探しに行く物語が思い出された。
 スケッチはしても、映像より文章を好むぼくは、あの話を映画ではなく木で読んだ。
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こんな感じで、キャラクターが「今」という見ている風景を描写しながら、
ところどころ焦点をあてつつ、「僕がどう感じるか」という心理描写を入れながら
体に感じる感覚(暑いとか、寒いとか、心地よいとか)を描写していくわけ。

描写ができれば、特にイベントのない移動するシーンも、それなりに面白く
書くことができるのよ。だから、描写は大切なのね。