加筆修正。


「ピース! 吉田クン、元気?」
  一人の美少女が右手でVサインを出し、笑みを浮かべながら、光太郎に声を掛けて来た。
  英字新聞で読んだ記事に載っていたウィンストンチャーチルのVサインを思い出す。
 「山本さん、どうも……」
  光太郎は声が上ずっている。
 「隣の方は吉田クンのお爺様かしら?」
 「うん、そうだよ」
  光太郎は明らかに緊張している。
 「お初にお目に掛かります。私はクラスメイトの山本明莉と申します」
  と言うと礼儀正しく頭を下げて挨拶をした。
  できたお嬢様だと痛く感心をした。
  背は高く、顔は彫りが深い。
  何処かの国の血が入っているのだろうか。
 「光太郎は私の曾孫当たります。申し遅れました、私は吉田十軒と申します」
  私はソフト帽を脱いで挨拶をした。
 「素敵なお爺様でいらっしゃいますね。吉田君はクラスの人気者なんですよ、いつもひょうきんなことを言って、みんなを笑わせてくれるんです」
  そう光太郎を良く言ってくれる、このお嬢さんの笑顔は、原節子を彷彿とさせる爽やかさがある。
 「そうですか。ところでその格好で寒くないのですか」
  セーラー服の上にオーバーを羽織りマフラーを首に巻いているが、下は酷く短いスカァトを穿いている。 
 「大丈夫です! 昔から身体は丈夫ですから、子供は風の子と言いますしね」
 「そうかね。では、お気をつけて」
 「はい、有難うございます! 吉田クン、またね!」
  彼女は手を振って去っていった。
  私は光太郎の顔を見ると、両頬が朱に染まっている。
  それを見た瞬間私は、光太郎が、あのお嬢さんに恋心を抱いているのに気づいた。
  だが、頑張れよと言って、励ますようなことはしない。
  そんなことを言ってしまえば、光太郎は精神的に参ってしまうだろう。
  嘗て、学生時代の私がそうであったように。