甘やかな声が暗がりを滑って行く。

「そう、それは素敵ね」

月光が差し込む。少女の横顔が浮かび上がった。
彼女は物陰に向かって話し続ける。

「でも、無理しちゃ駄目よ」

音として表れる返事は無い。
にもかかわらず少女は、しばしの間の後、得心したようにうなづいた。

「ほら、月が綺麗。……少しは足しになるでしょう?」

少女は陰から何かを取って腕に嵌め、月に向けそのまま手を差し伸べた。
白い光が、彼女の腕の様子を露わにする。
少女の肩から手の先まで、すっぽりと人形の体内に覆われていた。
白皙の端正な風貌、豊かな黒髪、繊細かつ豪華な刺繍が施された長衣。
けれどその人形、肌は泥で汚れくすみ、黒髪はほつれ、衣服はカギサキだらけであった。

少女はそのような様子にも怯まない。
人形の唇に口づけを落とし、そのまま息を吹き込んだ。
彼女の息が吹き込まれるにつれ、くすみは落ち、髪は艶やかに、衣服は元の様相を取り戻していく。

「ふふ、今はここまで」

少女は腕から人形を抜いて窓辺に座らせると、彼の髪を梳り始めた。