狭い部屋で女は祈っていた。その手の中にはボロボロの人形が握り締められている。鉄格子の小さな窓から外を眺め、真っ白な衣服をまとい、こうべを垂れる。

「あぁ、どうか神さま。私をお救いください。私はなにも悪い事はしておりません。早くここから出してください。
私は伝えなければならないのです。この地球に滅びの危機が迫っているという事を。今ならまだ間に合うのです。人類が存続できる方法を知っています。
それなのに誰も耳を傾けてくれません。神さまお願いです。私をお救いください。私は人類を救いたいのです」

泣きながら空に向かって祈りつづける。

その部屋の前で、聞き耳を立てる女がいた。その者もまた白い服をまとっている。だが、祈る女のものとはまた違った。

「また、白坂さん誇大妄想してるわ。薬の量を増やしてもらったほうがいいのかしら。先生に相談してみましょう。
それにしても、妄想性障害もあそこまでなったら逆に凄いわよね。まったく新種のウイルスが突然発生して世界中の人々が死ぬなんて有り得ないわ。
しかも、それのワクチンを作る方法まで知っているなんて馬鹿馬鹿しい」

女は鼻で笑った。

その翌年、新型の殺人ウイルスが発生した。全世界に蔓延し人口はあっという間に減少、ワクチンを開発する間もなく人類は一人残らず死んだのであった。