「ぶえっくしょっんっっ」
おもっきし唾を飛ばしたあと鼻水をすすった。39.6という数字を表示した体温計を投げ出すとカビ臭い布団に身体を投げ出す。
外は雪が降っているというのに暖房器具もなく薄っぺらな布団にくるまった。
「あーくそぉ……だりぃ、頭いてぇ…………はら、減った」
一人暮らしを初めて早3ヶ月。親と喧嘩別れして家を飛び出したが良いもののフリーターの俺に金なんてなかった。
とりあえず家賃18000円のボロアパートを借りたはいいものの、早速食うものに困った。
毎日バイト三昧。彼女もいない。夢もなく何やってんだってときに、風邪ひいた。身体は寒いし、頭はぼうっとする。
「なに……やってんだよ、俺」
我ながら情けないと思いながらもう一度鼻をすすった。その時インターホンが鳴った。ガチャリとドアが開く。母親だった。
「なんね! 鍵と閉めんでから、なんしようとね」
「お袋……てめ、なんのようだ……よ」
「あんた元気ないとどうしたん? まさか、風邪ひいたんね。ばかやねぇ。なんで連絡せんとね」
「う……るせぇ」
「仕方ないねぇ。かぁちゃんがなんか作っちゃるよ」
そういってキッチンに立つと頼んでもないのにせかせかと動いた。
数十分後、出されたのは真っ白なお粥。ほかほかと湯気が立ち上り顔にかかる。
「うま……そぅ」
「塩もないっちなんね。それくらい買っとかんね。味気ないやろうけど我慢しぃよ。とりあえず食べんとよくならんけ食べとき」
「……うん」
サジで掬うと口に入れた。熱々のお粥が口に広がる。柔らかい白米を噛みつぶすと甘みが広がった。こんなに美味い飯いつぶりだろう。
身体が温まっていく。心がポカポカする。うざいはずだったお袋。口うるさくてデブでいびきが激しくて……でも、飯だけは美味かったな。気づけば俺は泣いていた。塩を入れてないのに、お粥がしょっぱい。
「なんね、そんな美味しいとね」
「う、うるせぇよ」
「仕方ないね。今日はいっしょに寝ちゃるけね」
「こ、子供扱いすんなっ」
結局、お袋は朝までそばにいてくれた。いびきがすげぇうるさくて眠れなかったけど、でも寂しくなかった。
家に帰ろうと思って、翌日そのことを言った。
「なんね。せっかく家が広くなったっち思ったのに残念ばい」
でも嬉しそうだった。