ドン、ドン……。ボロアパートのドアが乱暴にノックされた。
柳原太一はベッドに寝転がったまま面倒臭そうに返事をした。
「開いてるぞ、勝手に入ってこい」
建て付けの悪いドアがギィと音を立てて開く。
「うおい、元気かあ」
のっそりと入ってきたのは、ヨレヨレの学ランと無精髭のむさ苦しい男だった。
「たっ、館川先輩!」
太一が慌てて起き上がろうとすると、館川はいいからいいからと手を挙げてそれを制した。
「無理すんな、まだ体中ボロボロなんだろ」
「す、すいません」
太一は包帯でぐるぐる巻きの頭をわずかに上げ、精一杯の謝意を表した。
「ったく、馬鹿なことしやがって。一人で殴り込みなんて、何考えてんだ」
「すいません」
「まあいい、そんなことを言いに来たわけじゃねえ。お前、飯はどうしてんだ」
「どうもこうも、実はもう二日も何も食べてません」
「やっぱり。どうしてお前はそう意地っ張りなんだよ、こんな時くらい人を頼ったらどうなんだ」
「やっ! そ、そうじゃねえんです!」
太一は慌てて声を上げた。
「何がそうじゃねえんだよ」
「これ、これ! 両手もグルグル巻きで、ケータイも打てねえんすよ!」
「あ……」
これには館川も呆れるしかなかった。
「ったく、しょうがねえなあ。わかったよ、実は俺もそんなことじゃねえかと思ってよ。飯持ってきてやったぞ」
「ええっ、本当っすか! 先輩が作ったんすか!」
「そうだよ。どうせ腹もボコボコに殴られて硬いものなんか食えねえだろ? お粥作ってきてやったぞ」
太一は、その言葉に思わず瞼をギュッと閉じた。
「おい、なんだよ」
「くっ……。感激っす。先輩が……俺なんかの為に……」
「おい泣くなよ。ほら、冷めないうちに早く食え」
館川はバッグから保温式の弁当箱を取り出すと、太一に差し出した。
「すんませんすんません! すごく食べたいすけど、俺、手がこんなんで」
「ああ、そっか。しょうがねえな。じゃあスプーンで食わせてやるから」
「すんません、起き上がることも」
「しょうがねえな……。じゃあ……」
「すんません……」
館川は粥を一口自分の口に運ぶと、そのままベッドの上の太一に覆いかぶさって行った。