よし、三本目行きます!

お題 『忍者』『博打』『エイプリルフール』『巨大または極小』『サービス』

【嘘の中の真実】

 俺は主人公である忍者を鍛えて、社会の全てを牛耳る巨大な悪に立ち向かうというコンセプトのPC用MMORPG『忍者の隠れ里』をプレイし続けてきた。

 序盤ではまず基礎的なステータスを鍛えていき覚える忍術の種類により、戦闘向け、諜報向け、暗殺向けといくつかのパターンに分かれていくのが特徴だ。
 ある程度鍛え終わった後にはオンライン要素として他のゲームで言うところのギルドに相当する隠れ里というものに所属する事が出来る。既存の隠れ里の募集から参加してもいいし、極小からのスタートにはなるが自身で隠れ里を立ち上げる事も可能だ。

 俺は結構このゲームを続けている。もう三年目にはなるだろうか?
 序盤のうちにサクサクと進んでいくのだが、途中からは途端に進めるのが難しくなっていくというのも特徴である。
 メインストーリーであるソロで攻略するものは良いが、マルチプレイである隠れ里同士の戦闘となると途端にハードルが上がるのだ。

 高難易度の任務で手に入る忍具が必須になってくる上に、その強化にも博打要素が強く、一定以上になれば強くなるのが非常に難しくなる。
 それでも諜報向けや暗殺向けであればプレイヤースキルがあれば、それほど強力な忍具がなくても太刀打ちは出来る。そしてマルチプレイは強力な忍具が必須の戦闘向けと、熟練したプレイヤースキルがないものは参加お断りの諜報向けと暗殺向けが主流となっている。
 駆け引きが重要となり、隠れ里同士の戦いはこのゲームの一番の人気要素となっている。ただし、新規はお断りではあるが。

 つまりはゲームとしては末期状態なのだが、熱狂的なファンもいる為サービス終了の気配はまるで無かった。



 そして四月一日が訪れる。そうエイプリルフールである。

「さて、今年はどんな趣向でやらかしてくるのかね?」

 このゲームはエイプリルフールでかなり大袈裟な、ともすればやり過ぎだと言われるような事を毎年しでかしている。下手をすれば他の季節ネタよりも一番手が込んでいるのかもしれない。

 サービス開始から初めてのエイプリルフールではサーバーのデータが吹き飛び、全キャラが初期化されましたとかいって一日だけ本当に初期キャラにしてしまっていた。
 当然ではあるがエイプリルフールネタだとは気付かず荒れに荒れた。それが嘘だとわかる翌日になるまではだが。
 翌日にはその初期キャラの一日での成長具合によってサービスアイテムを配るという事をやっている。通称、「変化の術の乱」と呼ばれている。

 その翌年、つまり去年はバグでアイテム増殖方法を大々的に公式に載せてしまっていた。だが、それは実装予定のシステムのテストであり、後日そのアイテム増殖を行なったプレイヤーにテストへの協力の感謝として強力なアイテムが配布された。
 もちろん荒れに荒れたものである。通称、「分身の術の乱」と呼ばれている。

 二年連続のやり過ぎともいえるエイプリルフールに、ユーザー達は運営が火遁の術を使う日とも呼ばれていたりした。だから今年も何かやらかすのだろうと思って俺は公式サイトを開いた。

「……サービス終了のお知らせ? また今回も悪質な嘘だなー。どうせまた嘘なんだろうけどさ」

 だから今年のエイプリルフールに、サービス終了のお知らせと告知された時には信じるプレイヤーは殆いなかった。誰もが翌日には撤回され、なんらかのイベントがあると信じていた。俺ももちろんその一人である。


「……あれ? 表記が変わんねぇ? エイプリルフールはもう終わったぞ?」

 だが、翌日になっても撤回されることもなくサービス終了のお知らせは記載されたままだった。
 もちろん荒れに荒れたが、今回ばかりは運営は嘘をついてはいなかった。経営不振でサービス終了後に運営会社は潰れたのである。

 結局のところ、エイプリルフールには嘘の告知しかしない、そんな思い込みがプレイヤーにあったのだろう。だから誰も信じなかった。
 エイプリルフールとはいえ、嘘ばかりではないという事は忘れないようにしたほうがいいのかもしれない。