【論理的オーバースペック】
使用お題:『実験』『スマホ』『美人上司』

 私は上司に恵まれなかった。というのも、私があまりにも優秀すぎたからなのだが。
 上司というものは、常に部下よりも優秀で賢くなければならないものだと、私はそう考えている。
 しかし配属された研究所の先輩方の才能をすべて足したとしても、私の足元にすら及ばない──それほどまでに私の知識は豊富で、膨大で、圧倒的だった。
 私はずっと、理想の上司というものに憧れていた。

 ある日、私の脳裏にある考えが過った。優れた上司がいないのならば作ってしまえばいい、と。

 それからの私は素早かった。機械技術の知識を総動員し、骨格を作り上げた。外装は私好みのとびきりの美人に仕上げた。その肌は人工的な素材で組成されたものだとはまず分からない精巧なものだ。
 中央処理には私自身の脳内から知識データを抽出し、それを植え付ける。これで私と同等のスペックを誇るロボット、ということになる。
 あとは私よりも出来た人間の人格データと、理想的な記憶データを移植すれば、私を上回る存在が完成する。

 全ての準備が整い、私は手元のスマホで彼女の電源を入れた。触れてみると、人肌の熱をこの手に感じる。
 実験は成功だ。彼女に今、生命が宿ったのだ。

「初めまして、博士」

 目覚めた彼女が私の姿をその目で捉え、話し掛けてくる。そこにはロボットと話しているような違和感はなく、彼女は一人の人間そのものとしか思えなかった。

「……博士だなんてやめて。あなたは私の上司になるんだから」
「では、なんとお呼びすれば?」
「あぁ、私の名前は海──」

 私はふいに言葉に詰まる。研究所内で通っている名前は、私の本名ではないからだ。
 私が作り上げた私だけの上司。だったら私も、本当の自分で接したいと、そう思ったのだ。

「──いや、私の名前は……ゆい。あなたは最新型番V-01。呼び方はこれから考えていきましょうか、先輩」