使用お題:『7』『美人上司』『マジレス』
【美人過ぎる女上司が俺に厳しい気がしたけど勘違いだった件について】(1/3)

 「田村君。この資料は何?」
 井上専務のピシャリとした声に俺は思わずビクリと震えた。
 声の方向へ振り返る前に、俺は顔を横にいる先輩へとかすかに向けるが、先輩は苦笑いをするだけだった。そんなぁ。
 「田村君。聞こえてる?」
 「ただいまぁ!」
 俺はダッシュで専務の机の前まで来て、媚びへつらうように無理やり笑顔を浮かべた。それに対して井上専務は、まるで氷でできているかのような真顔で俺を突き刺すように射抜いた。
 それを見て俺は冷や汗を浮かばせる。
 「この資料提出する前に誰かに見てもらった?」
 「い、いえ! ちゃんとは見てもらってません!」
 「どうして? これでいいと思ったの?」
 「い、いえ! そんなことは!」
 「これだと主旨が伝わらない。いらないことを書きすぎて論点が分かりにくい。それに誤字がかなり多い」
 「すみません!」
 「すみませんじゃない! どうしてわからないことを人に聞かないの!?」
 「すみません!!」
 「すみませんじゃないって言ってるでしょ!!」
 「はいぃぃ……」
 井上専務の雷のような怒鳴り声にただただ俺は平伏するしかなかった。
 ああ、これで何度目のお叱りだろうか……怒られるたびに俺の精神がストレスですり減っていくのがわかる。
 「今度からちゃんとなさい」
 「はい……」
 ちらりと専務の顔を窺うと、専務は隙のない真顔で俺を見ていた。
 ……もう少し柔らかい表情をすれば、もっと美人なのになぁ……。
 席に戻ると、隣の席の先輩がドンマイと俺の肩を叩いてきた。
 「……先輩、ちらっと見てこの資料いいじゃんって言ってくれましたよね?」
 「ああ、悪かったよ。俺の名前出さなくてありがとう」
 「……」
 「でも専務が厳しいのもあると思うぜ。あれくらいのなら普通は通ると思うんだがなあ」
 「……俺、嫌われてますかね?」
 「お前には厳しいよな。初日がまずかったんじゃねえの」
 「あのアニメTシャツスケスケ事件ですか……」
 「お前のじゃなくてアニメキャラの乳首が透けて出てきたのは俺もまずいと思うぞ」
 「俺の勝負服なのに……あれから専務が俺をマークしてるっぽくて……いつもあの真顔で俺を見てくるんですよ……」
 「あの人笑わねえよなあ。俺もあの人は苦手だ」
 肩をすくめて先輩は仕事に戻る。俺も仕事に戻るが、気分は憂鬱だ。
 他の無難なアニメTシャツ持ってくればよかったなぁ……。