使用お題:『気持ち悪い』『グッバイ』『赤ワイン』

【ワイングラスの縁】


 グビグビと赤ワインを呷る牧野 朱音の隣で、緑丘 奈瑞菜は静かにグラスを傾けていた。
 この中学以来の友人が、男にフラれてヤケ酒をするのは、ある意味お約束であり、その度に彼女はそれに付き合っていた。
 今回の相手は、営業途中で知り合った別の会社の営業の男性で、付き合ってからまだ、3カ月程しか経っていない。
 原因は、相手に“放っておけない相手”ができたから……と言う事らしく、いわゆる泥棒猫にかっ拐われた形の朱音は、荒れに荒れていた。

「ぬあぁにが『君はステキな人だけど、彼女には僕がいなくちゃダメなんだ』……よ! 『じゃあ、グッバイ』とか寒過ぎるっつーの!!」
「そうね、それは無いわね」
「でしょでしょ? ……あーうー……何で男運ないんだろ、わたし……」

 バーカウンターに突っ伏す朱音を見ながら奈瑞菜は溜め息を吐く。
 確かに相手の男も酷いにはひどいが、しかし、半分は本人の自業自得だと彼女は思っていた。

(理想が高すぎるのよ)
「うえ?」
「何でもない。ほら、瑞樹君呼んだから、今日は大人しく帰りなさい?」
「えぇ〜、もっと飲むぅ〜〜!」
「こないだも飲み過ぎて『気持ち悪いぃ』とか言って、瑞樹君に散々迷惑掛けてたじゃない!」
「良いのぉ、瑞樹はわたしの義弟だから良いのぉ。わたしのだから構わないのぉ〜!」

 駄々をこねる朱音を宥めていると、「すみません奈瑞菜さん」と、声を掛けられる。
 見上げれば、良く見知った顔がそこにあった。

「あ、瑞樹君。まぁ、しょうがないわ。親友だし」

 そんな奈瑞菜に瑞樹が頭を下げる。瑞樹は朱音の母親の再婚相手の連れ子で、朱音の義弟である。
 まだ高校生だがしっかりした少年で、年下ながら父性……と言うか包容力がある。

「義姉さん、帰りましょう? 明日はお休みだから、ゆっくり出来ますよ?」
「あ、瑞樹ぃ、おんぶぅ」

 外ではしっかり者で通っている朱音がここまで甘えるのは、奈瑞菜か瑞樹位のものだろう。
 だからこそ、弟離れが出来ないのだと奈瑞菜思う。

「ハイハイ、しっかり捕まって下さいね? あ、奈瑞菜さん、下にタクシー呼んであるんで、一緒に帰りましょう、送りますよ?」

 甲斐甲斐しく義姉を世話しながらも、良く気の付く瑞樹を見ながら、自分の頬が赤いのは赤ワインのせいだと、そう思う奈瑞菜だった。