4作目書いたけどオチが弱くて微妙かも

使用お題:『忍者』『博打』『エイプリルフール』『巨大または極小』『サービス』

【忍者のエイプリルフール】(1/2)

 日本は忍者大国である。

 国民はすべて忍びの一員であった。
 特別義務というわけでもなく、自然に忍び服を着こなし、外出するときは常に日陰を素早く移動する。言葉を喋るようになった歳から必ず何らかの任務に就き、その正体を知られてはならない。
 当然、忍者は一般人だけでない。政治では自由忍者党が忍びの専門教育機関を設立するために暗躍したらしいとの疑惑について、敵対政党である立憲忍者党の忍者たちが大絶賛している。
 NIJ7のリーダーが「私、アイドルをやめて普通のクノイチに戻ります」宣言をしたのを見て、ファンの忍者たちが刀を折り始めるという大事件が起こってしまった。黒染めの刃が粉々になって路上に散っている。
 とある妖怪をハンティングするゲームで、実にリアリティ度の高い忍者をプレイヤーにしていてゲーマーを興奮させていた。今まで地上戦しかできず非現実的だったのだが、風呂敷飛行や土遁の術のような基礎的な忍法がようやく実装されたらしい。

 というわけで僕も、どこにでもいるごくごく平凡でありきたりな忍者だった。
 ベッドの下で寝起きをし、身代わりに置いておいたベッドの上の人形を片付け、カーテンは開けず、コンマ4秒もの時間をかけてゆっくり着替えをし、朝食を取る。ちなみに朝ご飯は兵糧丸と味噌汁だ。

「おはよう、妹よ」
「おはよう、お兄ちゃん」

 リビングの扉は微動だにしてないが、妹が入ってきた気配を感じた。口笛にも似た高周波での圧縮言語で一瞬のうちに朝の挨拶を済ませる。
 妹の分の兵糧丸を後ろ手で投げ渡し、食事を続ける。投げた兵糧丸は壁にぶつかる寸前で掻き消え、誰かが受け取ったのを気配で察した。

「さんきゅー」
「別にオレは止めないけど、食事しながら隠れ蓑使うのやめろよ。行儀悪いぞ」
「いいじゃん、別に」

 そう言って妹は、おそらく食器棚の影で朝食を食べ始めたようだった。僕もテーブルの影で味噌汁をすする。

「でさー、NIJの名前忘れたけどリーダー引退したじゃん? あれ昨日の音楽番組でも話題になってたよ」
「へー。音楽番組って、シノビーズのメンバーがMCやってる?」
「そうそう、ライバル事務所なのにビックリしたんだろねー」

 妹は反抗期真っ盛りの年頃ではあるけれど、比較的仲は良かった。なので朝食時はこんな他愛もない話をしている。
 お互い姿が見えない位置でくだらない話をしながら朝食を終えた。僕は席を立ってサッと移動しようとする。
 しかしその瞬間、何者かに背後から抱き着かれた。柔らかい感触に戸惑う。反射的にクナイを引き抜こうとしてやめた。

「で、お兄ちゃん。ちょっとお話があるんだけど」
「おま、い、いきなり何を!?」

 仲が良いとはいえ、こんな触れ合った記憶は幼い頃におままごとで暗殺ごっこしたとき以来だった。兄妹でこんな抱き着くなんて普通しない、はずだ。
 だが妹はオレの意など解せず、巧妙に腕を絡めてくる。膨らみ始めた微妙に柔らかい部位が肩にあたってドギマギする。
 身代わりの術を使って逃げようと思ったがテーブルの下だと狭くてできなかった。オレは必死に抵抗する。

「おま、いきなり何するんだよ。お小遣いが欲しいなら暗殺の依頼でも受ければ……」
「私、忍者なの」