>>351  使用したお題:『母』『5月病』『魔法』

【やるキー】

「さーて、今日ご紹介する商品はこちら!」
「ええと、これはなんですか? カギ?」
「はい、その通りです。これは魔法のカギ、通称『やるキー』です!」
「やるキー? ヘンテコな名前ですねぇ。で、これはなんに使えるんですか?」
「これはですねぇ、なんと体に差し込むとその人のやる気が出まくる! という商品なんです!」
「え、なんですかそれ?」
「大抵は背中あたりなんですが、そこにこのやるキーを差し込むと、もう元気溌剌! なんでも何に対してもやる気が出て凄い活動的になるんです!」
「まるでアニメの未来道具みたいな効果ですねぇ」
「ええ、全くその通りです! このやるキーを使えばあら不思議、かったるいなぁ疲れるなぁと思ってやりたくないと思っていた作業がぐんぐんはかどります! これがあれば月曜日の朝なんて怖くない!
 めんどくさい炎天下の営業回りも手間ばかりかかる家事掃除もやりたい放題ですよ!!」
「もしかして、五月病なんかにも効きますか? 最近ちょっと朝起きるのが辛くって……」
「もちろんです! 今まさにその季節ですからねぇ。仕事に慣れて『早起きしたくないなぁ。今日休みたいなぁ』って人にはまさにオススメです! 体の奥底からやる気が沸いてきますよー!!」
「でも本当に効果あるんですか? 正直、ちょっと疑わしいんですけど……」
「ご心配はよくわかりますがこちらをご覧ください! ほら私の背中に!!」
「あ、ホントだ。やるキーが刺さってる!」
「はい! 私が今日こんなに張りのある声が出ているのは、まさしくやるキーのおかげです! というか我々のようなお仕事には必須の代物なんで、テレビに出るとき同僚はみーんなこれ使ってます!」
「ああ、だからおたくの会社の社員さん、みんな妙にテンション高いんだ」
「そのとおおおおり、でございます!! それにこちらの写真を見てください。こんな青ざめた顔をしたやる気のない主婦も、やるキーを刺したら驚きの効果! こんなに張り艶ある顔になっています!!」
「ホントだ、表情が全く別人ですねぇ」
「それだけじゃなく、やるキーを刺した途端、今まで厄介だからと倦厭していた実家へのご挨拶や台所にこびりついたしつこい油汚れの掃除なんかも率先してやりだしました!
 やる気がみなぎりすぎて、なんだか若返った気がするとおっしゃっていました! 実際、彼女の娘さんから『お母さんが元気いっぱいで嬉しい』とのお声もいただいております!!」
「へー、凄い効果なんですね。でも、そんなに効果があるんじゃお高いんでしょう?」
「そんなことはありません! なんとこのやるキー、通常なら1本このお値段ですが……今ならなんと半額でご提供できます!」
「おー、すばらしい!」
「しかも! この放送を見た、と一言仰ってくださったお客様には、先着100名様限定で、なんとやるキーを2本目をセットでお送りさせていただきたいと思います!」
「えー、1本のお値段で2本も? お得すぎませんか?」
「それだけじゃありません! 期間限定ではございますが、今ならやるキーを保管しておくには便利な専用ケースと、やるキーを綺麗にするための洗浄液もおまけとしてお付けいたします! もちろん送料は無料です!!」
「わー、すごい! 私買うわこれ!!」
「ではもしご購入を検討されたお客様には、こちらの電話番号をお願いします! いいですか? 0120……あれ? え?」
「ん? あれ、え、ど、どうするの?」
「……ええと、申し訳ありません。今回ご紹介した商品のやるキーですが、どうやら在庫がなくなってしまったようで、ご提供することができなくなってしまいました。申し訳ございません……」
「え、ええと、その今さっき届いた情報によりますと……『五月病でダラけていた電話係や商品梱包部や営業部にやる気を出させるため、全員にやるキーを刺したところ、在庫がなくなってしまった』とのことです……」
「ええっと、その……申し訳ありませんでした!!」
「謝罪もやる気一杯でやるんですねぇ……」