執筆意欲が若干回復し、せっかく思いついたので書きました。

使用お題:『対決』『母』『サブミッション』

【母は強し】

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 バタンッと乱暴にドアを閉める。
 夜道を歩いていると背後に妙な気配を感じて、慌てて家まで帰ってきた。でも、家まで辿り着いても不気味な気配は消えてくれない。むしろ変な寒気がしてきている。

「乱暴なドアの閉め方をしてどうしたの、彩花?」
「……あっ、お母さん! なんか変なの!?」
「……あーなるほどね。あんた、霊に好かれやすいのに見えないから」
「……お母さん?」

 そう言って母は何も居ないはずの玄関に向かって無造作に手を伸ばす。そして何かを投げ飛ばすような仕草をした後に、何も無いはずの場所にサブミッションを仕掛けていく。その瞬間に先程まで感じていた不気味な気配は薄らいでいた。
 何が起こっているのかは全く見えないし、分からない。それでも母が何かと対決しているのだという事だけは理解できた。なにせ、何も無いはずの場所に母がサブミッションを極めたまま浮かんでいるからである。

「うちの娘に取り憑こうったってそうはいかないよ! 大人しく諦めるんだね!」

 母は見えない何かに向かって叱責する。あぁ、見えないだけでここに良くないものが確実にいるんだ。何かがもがき苦しんでいるかのように、ガタガタと物音がする。母がサブミッションで抑え込んでいるものが暴れているのかもしれない。

「もっとやる気かい? ただでさえ無くなってる腕と脚をもっと減らしてあげようかね!」

 母のその強気な言葉に、何かが暴れる気配は無くなった。嫌な気配ももうしない。

「彩花、もう追っ払ったから大丈夫。怖かったんじゃないかい?」
「……うん、でもお母さんありがとう」

 こういった経験は初めてではない。母には何かが見えていて、私はその何かに好かれやすいらしい。そてでも母はこうやっていつも守ってくれる。父が亡くなってからも一人で育ててくれた私の母は私の自慢の母親だ。

「まったく、あんたが憑いてて何やってんだい!? 娘の一人くらいちゃんと護りな!」

 時々、私の背後に向かって何かを捻り上げるような動作で怒鳴り上げている事だけはいまいちよく分からないのだけども。