>>425 使用お題:『逆上がり』『同性愛』『女装』

【メイドリフレ『とろい』】(1/3)

 健司は重い上体を持ち上げて眠りから覚めた。いつの間にか机に突っ伏して寝ていたらしい。
時計を見ると時刻は午後3時を回っている。昼食を摂った後に寝たとすると2時間以上も昼寝をしていた事になる。
ずっと曲げられていた腰を伸ばすとポキポキと音を立てて痛み出した。
 ケータイがバイブレーションで机をたたきながら鳴っている。
セットしていたアラームが鳴っているだけだと思った健司だったが、着信時のメロディだと気づくや否や
急いでケータイをひったくり、いつもの決まり文句を口にした。
「お電話ありがとうございます。メイドリフレ『とろい』でございます」

 東京都内を中心にひっそりと営業している派遣型メイドリフレ、それが『とろい』である。
お客様、もといご主人様から電話を受ければすぐさまご希望のメイドを派遣してマッサージやお部屋の片づけ、
料理や耳かきなどをするのが主な業務内容である。愛想の良いメイドたちの丁寧な仕事ぶりのおかげで競争激しいこの業界を生き残り、
ついに来年で設立10周年を迎えることになっている。
 健司は『とろい』のそんな実績に惹かれた。長く働き続けることが出来、かつ綺麗な女性に囲まれた職場を探して就活をしていた時だった。
『とろい』はまさにうってつけに思われた。しかし働き始めてからすぐに『とろい』の抱える大きな問題にぶつかった。
 健司が入社したときに簡素な入社式が行われた。しかしいくら待てども期待していた綺麗な女性は姿を現すことが無く、
結局最後までオーナーと二人っきりで行われた。不思議に思った健司がオーナーに聞くと、従業員は健司一人しかいないと言われた。
去年まで働いていたメイドたちは結婚や引っ越しで辞めて行き、運転手をしていたアルバイトも就職を機に辞めて行ったそうなのだ。
人材不足というレベルではない。すぐさま辞めてしまおうと思った健司だったが、
「逃げたら殺すぞ」
とヤクザ顔のオーナーに脅されて辞めることが出来なかった。本当に殺されそうな気迫だった。
 仕方なく嫌々働くことに決めた健司は、手始めにまずメイドの募集をかけてみた。とにもかくにもメイドがいないとお話にならない。
ネットの掲示板に書き込んだりビラを作って配ってみたり、ナンパのごとく直接声をかけてみたりもした。
しかし薄給でイロモノの求人に一体だれが飛びつくだろうか、若い女性は誰一人やってこなかった。
 何一つ仕事が出来ぬまま一月が経った。
 健司は悩んだ。このままではノルマが達成できずにオーナーに殺されてしまう、しかし肝心のメイドすら集まらない。
この状況を打破するためにはどうすればよいか。悩んで悩んで悩み抜いた末に、ようやく一つの決断をした。
 自分がメイドになればいい。