>>425 割とシンプルな内容かも

使用したお題:『逆上がり』『悪魔』『女装』

【キックオーバー】

 怖い、嫌だ、逃げたい、誰か、助けて。

 自分は心の中で叫び続けた。しかし声をあげることはできない。そんなことをして周囲から注意を買ってしまうのは絶対に避けなければならない。
 なぜなら、そう、ここは地獄だからだ。

 まず味方がいない。周囲は敵だらけだった。そしてわずかなイケニエが次は自分の番か、と涙しながら人ごみに隠れ潜んでいる。自分もまた哀れなイケニエの子羊だった。
 そして周囲の悪魔どもは容赦がない。その飢えた目は常にイケニエを求め続け、彼らの末路を見ては嘲笑っている。悪魔の親分でさえ、その視線は優しくない。

 しかし悪魔のくせに、妙に女子供には寛大なところもある。
 いっそ自分も女だったらよかったのにと思わなくもないが、女装したところですぐにバレておしまいだろう。
 より深い地獄にたたき落とされるのが関の山だ。

 悪魔の親分の声。どうやら自分のことを探しているらしい。嫌だ、見つかりたくない!
 体を小さくするも無駄だった。その鋭い視線がすでに自分の方を向いている。もうダメだ、おしまいだ!
 自分は心の中で絶叫しつつ、せめてもの情けをかけてほしいとばかりに片手をあげて返事をした。




「おい、清水。次だぞ。早く前に出なさい」
「……はい」
「おーい、清水? お前逆上がりできるのか? 女みてぇにできないんじゃないだろうな?」
「小4にもなって逆上がりできないってマジありえなくね? まあ遠藤もできてなかったけどさー」
「クスクス」
「ううう、だってできないんだから仕方ないじゃないか……」