>>425
使用お題:『逆上がり』『音楽』『同性愛』

【ゆうやけこやけ】(1/2)


 小此木公園は、神社の有る山の中腹辺りにある小さな公園で、真由と奏江にとっては、幼い頃から遊んでいたなじみ深い場所でもあった。

 マウスピースから口を離し口元を拭う。
 小さな痺れがその薄桃色の唇に走っている事を感じ、大江 由真はこのまま続けて練習するより、一休みを入れる事を選択した。

「奏江ちゃん、ちょっとお休み入れよう?」
「ん? ん〜〜……まだ続けるつもり?」

 隣で同じ様に練習をしていた颯浪 奏江は、トランペットを持ったまま背伸びをして、そう訊ねる。
 首を傾げた由真だったが、辺りが薄暗くなっている事に気が付き、練習を始めてから1時間近くが立って居る事を悟った。

「え、えっと、まだ、ちょっと自信が無いから、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ付き合って?」
「……う〜ん、良いけどぉ……」

 少し不満げにそう言う奏江に、真由の心が微かに痛む。

 2人が所属している吹奏楽部は部員数70名強を有する一大規模の部活であり、そのレギュラー争いが苛烈な事でも知られている。
 それ故に部活後の自主練習は必須で、2人もこうして、音を出しても周囲に迷惑の掛からないであろう小此木公園までやって来たのだ。
 実際、真由が自身が無いのは本当である。だが……

 奏江が帰りたがってる“ある理由”を由真は知っているが為に、その時間を引き延ばそうとしている自分自身を彼女は浅ましく思う。

『行き合えよって、言われたんだぁ』

 困った様な嬉しい様な、そんな表情の奏江に話を聞いた時、由真の心はヤスリを掛けた様にざらついた。

 戸田 雅樹と言う少年の事は、由真は正直苦手だった。奏江と同じ様に幼馴染と言う立場ではあったが、ガキ大将的な雅樹の、乱暴そうな雰囲気が好きではなかったし、中学に入ってから身長が伸びた為、覆い被さって来るような威圧感があって怖かったからだ。