>>489 勢いで書いたせいで読みづらいかも、ごめん

使用したお題:『昔話』『誰かが雄たけびをあげる』『悩み』

【前編】

 その昔、奇病が流行っていた。

 その病気にかかるとあら不思議、体調は一切変化しないのだけど、驚くほど短期間で体中の水分が抜け落ち、干からびて死んでしまうという病気だった。病死までのその時間、なんとわずか丸一日。とてつもなく強力な伝染病であるといえよう。
 しかもどうやらその病気は感染力が強いらしく、ものすごい速度で病気が広がってしまう。体液感染はもちろん、接触しただけでも病気が移る。しかも感染源が死亡した際に死体から溢れる謎の粉末は、風に乗って遠くの里まで届いてしまうという悪質さだった。
 パンデミックという言葉がないほど昔の話だったが、その奇病が全国に知れ渡ると同時に人々は恐怖に怯え、日々警戒を続けていた。

 ただ、その病気を治すことは実は簡単だった。長年謎とされてきたが、なんとその病気、とてつもなく水に弱いのだそうだ。
 どういう原理かは不明だが、全身が水に浸かっているとその部分だけ干からびることはなくなるのだ。そして体が冷やされ続け体温が一定以下であると、病原体が死んでしまうらしい。
 また、これまたどうしてそうなるのかわからないが、病気に罹患した患者は、水中で活動ができるようになるそうだ。水の中でも窒息することなく、息が続くらしい。
 なのでこの病気の対処方法がわかった日を境に、この奇病に恐怖していた人々は、水の中で自由に遊べる楽しい病気へと変化したそうだ。

 この奇病はそのため「人魚病」と呼ばれるようになり、特に漁師や遊びたい盛りの子供たちに喜ばれるようになったのだ。歴史的に壮大な手のひら返しである。

 ただ、病気は所詮病気でしかなかった。そのことを歴史が語っている。

 水中での活動ができることを知った人々は、人魚病を利用しはじめたのだ。人間以外の動物にわざと罹患させ、病死するまで放置し、死んだ際に出てくる粉末を集め始めたのだ。
 水中で呼吸ができるようになる薬として安価で売られるようになった人魚病はなかなかの人気を博し、たくさんの人々が手に入れていった。遊び目的、探検目的、水中工事に使う人もいれば、水の中に落とし物をしたときにさくっと服用する者まで出た。

 ただ、この薬の使用はすぐに禁じられることとなった。死傷者が多数出たのである。
 まるで遊びで人魚病を利用していた人々を罰するかのように、薬を服用した瞬間体が干からびる人が続出したのである。本来なら死亡まで1日は猶予があったのに、おかしい話である。
 しかし考えてみれば当たり前の話で、病原体が水によって死亡するといっても、100%全てではない。ほんのわずか、1%にも満たない僅かな生き残りが体内に残り、それが積もり積もっていけば病死になる結果は目に見えている。
 そんなことがわかり、統治者の号令によってすべての人魚病の薬は摘発され、処分された。事業に投資したばかりで取りやめにされた商人たちは阿鼻叫喚の体を催したが、誰も同情なんてしなかった。
 ほんのわずかな商品だけが闇市場に残されたという噂はあるものの、治療方法まで確立された人魚病は完全に根絶し、気づけば誰も人魚病にかからない平和な世界が訪れたのである。

 ……ただ、商人の一人が人魚病の商品を隠そうとして、新しい発見をしてしまっていた。

 どうやら人魚病は、罹患者が水の中に長時間いると自然に死滅する、というわけではないらしいことに気づいたのだ。
 水中に長時間いた人体は冷え切っている。その体を急激に温めようと、体温が急上昇した瞬間に正確には死ぬらしい。ウィルスをやっつけようと人体が熱を上げるのと同じ理由である。

 そのため、変温動物は人魚病にかかっても暖かい昼間になると勝手に治り、水中に住んでいる魚等はそもそも罹患しても発症しないことになる。
 昔の人が生食を避けて焼いたり煮たりしていたのも、この人魚病対策の名残だったと思われる。

 え、どうしてその商人はこの事実に気づいたんだって?

 人魚病を詰めた商品の箱を隠そうと悩み、うっかり一つ開封してしまい、慌てて病気を治そうと水の中に潜ったときにそのことを察したのだ。海辺に転がっている干からびた亀の死骸から……。


 ……と、ここまでが話の一区切り、前編です。この話は次の昔話へと続きます。
 日本人なら誰もが知る、有名な物語へ……。


 むかーしむかし、あるところに浦島太郎という若者がいました。
 彼が浜辺を歩いていると、村の子供たちが一匹の亀をいじめていました……。