使用お題:『ガーターベルト』『メイド』『悩み』

【くノ一ボタンの色々な冒険】(1/3)


 ギャグボールを噛まされ、ボタンは必死で逃げようともがいた。目の前には4人の男女。ボタンの使命はその内3人の監視であり、もう一人の……サムライ風の少女については、まったく前情報に入って居なかった為、不意を突かれこうして囚われの身となってしまったのだ。
 そんな、ウーウーと呻き声を上げるボタンを見下ろしながら、監視対象である少年、タカシが目頭を揉んでいる。

 実の事を言えば、この少年に対する本当の指令は暗殺。だが先日、ボタンの里の腕利きの若い衆が襲撃を掛けたにも拘わらず、その全てを返り討ちにして彼らはここに居るのである。

 重傷ではあるが、誰一人命を失った者が居なかった若い衆を見て、驚愕と共にボタンは(!! ……流石は、勇者です!)と、そう思った。

 勇者……魔王と対を成す存在。魔王を倒し、人類を平和へと導く存在とされている勇者ではあるが、ここ魔王国では、その評価は真逆となる。
 「殲滅者」「一騎当千」「一人戦略兵器」「性獣勇者」ets……様々な異名がそれを表している。
 当たり前だろう。日々国民が増える魔王国において、彼等が自身の領域を冒されない様に領土を拡張しようと決断した魔王に弓引く者なのだ。

 だが、同時にある種の尊敬を集めているのも確かである。なぜなら、魔王国において強き者と言うのは、それだけで崇敬の対象と成るからだ。
 そう言う意味で、魔王が弱ければ勇者に討たれたとしても仕方ない……そう言った空気があるのも確かである。

 繁殖力の強い魔物種を擁する魔王軍は、産めや増やせやの心意気で、その圧倒的物量によって王国を侵略していた。
 だが、ここ最近はそれが滞っているらしく、王国軍との戦線は一進一退の様相を呈している。
 実はタカシのパーティーがあちこちで殲滅作戦を行った事で、魔王軍に大量の離反者が出たのが原因なのだが、そこは流石に表沙汰には成っていなかった。
 王国の国王は、ここが勝機とばかりに一騎当千たるタカシのパーティーを遊撃として、魔王との直接対決を依頼。
 だが、そこは流石だと言って良いだろう。タカシの行動を察知した魔王は、強力な魔物を魔王城の周辺に配置し、早々に守りを固めたのである。
 本来であれば、その上で兵を差し向けたかったのだろうが、今、戦線は膠着状態であり、これ以上兵を裂く訳には行かない。

 だからこそ、タカシ暗殺をボタンの里……カゲロウに依頼して来たのだろう。
 しかし……

 魔王直接の依頼を失敗したとなればカゲロウの名は地に落ちる事と成る。
 そうなれば、他の暗殺組織に舐められ、蹂躙され平らげられる可能性だってある。それ故に里の首領は、先日の襲撃も「相手の力を図る目的だった」と言う事にする為、監視を付ける事にしたのだ。

 その白羽の矢が立ったのがボタン。隠形の腕を買われての事ではあるが、女好きであると言う勇者に、万が一見つかった場合の事を考えての選出でもあった。
 瞳からハイライトの消えたボタンは、同行者……監視役の監視の二人と共に、タカシ監視の任務に就く事と成ったのだった。