>>489 今回少ないな。自分は二つ目だけどね!!(ドヤ顔
使用お題:『昔話』『悩み』『誰かが雄叫びをあげる』

【前編、その2】(1/3)

 むかしむかし、あるところに、それはそれは美しい女性がいました。

 その女性は見目麗しいだけでなく、心も美しく、たいそう人に好かれておりました。誰にでも優しく、両親を大事にし、四季や草木を嫋やかに愛で、本土から少し離れた小島の村で穏やかに過ごしておりました。
 そんな彼女のことを、百人一首の心情豊かな様子に準えて、人々は『百(もも)姫様』と尊敬を敬愛をもって呼び親しんでおりました。

 ただ、百姫様はあまりにお優しすぎたがために、少々婚期を逃しそうなのが悩みものでした。
 いえいえ、男性からの求婚はとても多かったのですよ? 平民からだけでなく、豪商や貴族のものからもそういう打診が幾度となくありました。
 しかし、百姫様は首を縦に振りませんでした。それはというと、彼女はあまり体の強くなかったご両親のことを殊更愛しており、家族三人での生活を何よりも大事にされていたからだったのでした。

 ……まあ、行き遅れになりそうだったことで当のご両親は気が気ではなかったらしいですけどね。

 それはそれとして、百姫様の幸せな生活が続いておりましたが、ある日を境にその日々は終わりを告げました。都に疫病が流行ったのです。

 その大病にかかった者は長く、長く苦しんで死んでしまいます。治療法はないではなかったのですが、薬代にとてもお金がかかるのです。
 なのでほとんどの人は脂汗を流しながら苦しみ続け、そのまま死んでしまいました。

 また、疫病で家畜や野菜がやられた結果、重大な飢饉まで発生してしまいました。病気にかからなかった者も食料がないせいで、どんどん痩せ細っていきました。
 僻地の村落は特に被害が酷く、人が屍肉を食らう姿も見られたそうです。まさに現世に現れた地獄でありました。

 百姫様のお家も無事ではすみませんでした。
 それなりに大きな家ではありましたが、日々の生活のために資産を食い潰していくハメになり、やがて明日の食事にも困る有様になってしまいました。
 そして悲しいことに、百姫様のご両親が病気にかかってしまい、その治療のために薬を買わねばならなくなったのです。そのせいで余計に首が回らなくなり、百姫様はとてもご苦労されたようです。

 優しいご両親は「私たちに薬なんていらないから、お前だけでも幸せになってくれ」と寝床で脂汗を流しながら笑顔で頼みました。
 が、同じく優しい百姫様が彼らを見捨てるはずもなく……そうして、彼女は最も辛いご決断をされました。

 百姫様は、とある金持ちとの結婚を了承したのでございます。

 その金持ちは、金だけは有り余るほど持っていましたが、それ以外は全て捨ててきたのではないかというほど酷い男でした。
 性格は最悪、見た目は醜悪、人望もなければ魅力もない。そんな男でした。

 その金持ちは百姫様にこう言ったのです。「ワシがお前を買ってやる。その金で、両親を救えばいいのではないか?」と。
 そして百姫様は……その悪魔の提案に乗ってしまったのです。

 こうして……百姫様の地獄が始まりました。

 金持ちにとって百姫様は妻などではなく、ただの姿形の良い人形、いえ、奴隷でありました。
 なので夜遊び朝帰り程度は当たり前、食事や掃除が少しでも気に食わなければ無抵抗の百姫様を殴り飛ばします。
 女を買って帰るのなんて日常茶飯事で、その片付けを仮にも妻である百姫様にやらせます。また庭師にトラをけしかけて楽しんだり、百姫様がよくしていた野良猫の首を首飾りにつけて送ったりと非道なことをします。
 人非人という言葉でも足りないくらい、それは鬼畜の所業でした。

 しかし、百姫様はその全てに耐えました。それもすべて、ご両親の治療のため。
 どうしても辛さに耐えかねたときは、百姫様は病床につくご両親の下へと向かいます。
 そうして辛い自分の境遇を押し隠して他愛無い話をする百姫様に、ご両親もまた病気の苦しさを隠して「もう少しだよ、もう少しだけの辛抱だよ。ごめんね……」と謝ります。

 外も地獄、中も地獄な人々の生活の中、百姫様も苦しみながら金持ちの妻として必死に生きてきました
 が、ある日その生活に大きな変化が訪れました。子を、宿したのです。