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使用お題:『イケメン』『遺伝』『北欧神話』

【アースガルドシンフォニー】(1/2)


『俺に首輪をはめられるのはお前だけだ』
「キャ―――――――!!」
「救流兎、ちょっと騒がしい」

 餓狼 焔里にそう言われ、トリップしかかっていた乃流 救流兎は周囲を見回し頬を赤らめる。幸い、コーヒーチェーン店の店内は盛況で、彼女の方に注目している者はほとんどいなかった。

「……良くゲームにそれだけ入れ込めるよね? アタシには分からないなぁ」
「エンリちゃんの意地悪! だってカッコイイんだよ? 乙女の憧れなんだよ?」
「…………まずそれが分かんない」

 救流兎が手に持っていた携帯ゲームの画面を焔里の顔面に押し付ける様に前に出す。画面には救流兎イチオシのイケメンキャラクターが映っていた。
 携帯ゲーム「アースガルドシンフォニー」は、北欧神話の登場人物達の遺伝子を受け継ぐキャラクター
を育てて、アイドルを目指しながら恋愛すると言う乙女ゲーである。
 乙女ゲーである為、その登場人物は全てイケメンで、その中からアイドルとして5人のキャラクターを選び、それを育てる訳なのだが、その中の一人、フェンリルの遺伝子を受け継ぐキャラクター“フェンリル”が彼女の推しメンらしい。

「フェンリルは、孤高の一匹オオカミだけど少し寂しがり屋で、毒舌屋さんだけど、本当は優しいんだから!!」
「あ、うん」

 「一匹狼なのにアイドルグループなんだ」等の突っ込み所が気になったが、目がグルグルと渦巻いている様な救流兎の迫力に負け、焔里は口を噤む。
 こうなってしまうと、親友が止まらなくなるのはいつもの事だからだ。

「とにかく!! カッコイイんだよ? キュンキュンするんだよ!! 分からないかなぁ? エンリちゃんもやってみなよ、はまるよ? と・く・に! フェンリルルートは絶対おすすめなんだからぁ!!」
「……アタシは良いかな?」
「エ――――!! なんでぇ―――!!」

 ******

「……無理だって、本当……」

 大きな溜息を吐きながら、それでも焔里は腕を振るった。眼前に居た蛇の特徴を持った異形の者は、彼女から出る鋭い爪を形作るオーラを受け消滅する。

「おー、お疲れさん! いやぁ、フェンリルは今日もカッコ可愛いねぇ」
「……」
「って、ちょ!!」

 そう言って近づいて来た男に向かい、焔里は無言で腕を振るう。
 ピシリと固まった男の背後にいた異形の者が、そのひと振りで消滅した。

「油断し過ぎ、そんなんだから、アタシに食われて終わったんだよアンタ」
「あ、あー、でも、可愛い娘に食べられるなら本望かな? オジサン的に」

 焔里が目を細める、青白いオーラが立ち上がると、オオカミの様なシルエットを形作る。

「茶化しすぎですよ? オーディン。それでなくとも彼女、真面目なんです」
「おー!! トール! そっちも終わったかな?」
「はい、滞りなく」

 月光の降り注ぐビルの屋上に、音も無く舞い降りたトールは、その場で大槌を振り回しながらそう言う。
 そうこうして居る内に、異形の敵、ニッズホッグを倒し終えた仲間達が一人、また一人と集まって来る。