そして深夜に一番乗り。つうかシンプルにお題を繋げただけなんだけど……

使用したお題:『花見』『ツンデレ』『ハプニング』『アトラクション』『スカート』

【一幕】

「はぁ、なんでアンタなんかと一緒に帰らないといけないのよ」
「こっそり校門前で待ってたくせにそんな憎まれ口ききますか、君は」

 嫌味ったらしく指摘すると、彼女は顔を赤くした。長くて綺麗な髪がサラリと揺れる。

「べ、別に一緒に帰りたかったわけじゃないのよ! その、この前の、おれ……」
「ん? 風が強くて聞こえない。もう一度」

 彼女の言葉の最後の方がかすれて聞こえなかった。「なんでもない!」と大声を出す彼女。
 なんでこういつもツンケンしてるんだか、疲れないのだろうか。

 彼女は誤魔化すかのように話題を唐突に変える。周囲を見回しながら桜色の空を仰いだ。

「にしても桜が綺麗ね。これはもう満開って言っていいのかしら?」
「満開だろうね。すでに散り始めてる。舞い散る桜は綺麗だけど、地面に吹きっさらしにされてる花びらの山はちょっといただけないね」
「そうでもないわよ。これも綺麗よ」

 こっちの意見にはいちいち突っかかってくる。しかし彼女の言い分も否定はしきれなかった。
 地面に落ちた花弁はちょっと薄汚れているが、風に吹かれて飛びあがるとそれはそれで綺麗である。散る桜が桃色の雨なら、舞い上がる花弁は桜の川しぶきだろうか。
 しかし、綺麗だからと言って油断していいものでもないらしい。花弁を躍らせていた春一番の突風がいたずらをして、彼女に襲い掛かった。意外と真面目で校則通りの長さの彼女の制服のスカートをめくりあげた。彼女の悲鳴。

「キャッ、いきなり何!?」
「思いっきりめくれてるよおい!」
「いや、見ないでよバカ!!」

 彼女は慌てふためくが、マリリンモンローよろしく長いスカートが逆さまにめくりあがっていた。これは酷い。
 命令に従って見ないであげるべきか一瞬迷ったが、あえて前に出た。彼女を抱きかかえるように近づく。彼女は身を固くした。

「な、なに?」
「周りに見られるのは嫌でしょ、ちょっとくらい我慢しなさい」

 人通りは決して多くないが、人がいないわけでもない。そんな桜並木にスカート逆転させた女子高生がいたら注目を浴びるに決まっていた。自分の体を使って隠してやる。
 彼女もそのことに気付いたのか、顔を桜以上に真っ赤に染め上げた。周囲からの視線が恥ずかしかったのだろう。急にしおらしい口調になった。

「そ、その。あ、ありが……」
「ところで今履いてるパンツ、私が買ってあげたやつだよね? この前の春休みに、遊園地で」
「っ!?」

 彼女の体が強張った。私は軽く笑いながら少し前の話をする。

「いやー、まさかお化け屋敷でアンタがやらかしちゃうとは思わなかったからね。売店で買った安物だったから逆にわかりやすかったよ。一緒に遊園地に行ったのが男じゃなくて私でよかったね」
「っ、ば、ばかあああああああああ!!」

 彼女は体を突き放すと逃げるように走り去っていってしまった。素直じゃない彼女をからかうのが面白くて言い過ぎたかなと少しだけ反省しながら、私は彼女が置いていった紙袋を手に取って追いかけた。
 自分の制服のスカートがめくれないように気を付けながら。